持病がある人は要注意 「熱中症」を招きやすい病気と薬

熱中症による救急搬送は昨年の5倍
熱中症による救急搬送は昨年の5倍(C)日刊ゲンダイ

 総務省の調べによると、7月3日までの1週間で熱中症による救急搬送数は全国で2918人。前年同期の540人の5倍超となり、早くも熱中症シーズンに突入だ。熱中症は脱水症状により体内に熱がこもり、体温の急上昇に伴って多臓器不全となり、最悪死ぬこともある怖い病気だ。水分の調節がしづらい乳幼児や高齢者がなりやすいといわれるが、薬を飲んでいる病気持ちの中年も要注意。どんな病気と薬が危ないのか?

■利尿剤で普段から“脱水状態”

「高血圧や心臓が弱い人で、利尿剤を飲んでいれば熱中症にとくに気を配らなくてはなりません」

 こう言うのは北品川藤クリニック(東京・北品川)の石原藤樹院長だ。高血圧や心臓病と熱中症とは、一見、無関係に思えるが、そうではない。

「患者さんの多くは、普段から医師に減塩を指示されています。塩分を取り過ぎると、血液の浸透圧を一定に保とうとして血液量が増え、結果的に末梢血管の壁面に圧力がかかり、血圧が高くなるからです。もちろん、血液量が増えれば心臓に負担がかかります」(石原院長)

 これらを避けるため、高血圧や心臓の弱い人は塩分を控えるだけでなく、利尿剤を飲む。血液からさらに水分を抜いて血液量を減らすためだ。つまり、彼らは普段から“脱水状態”にあるのだ。

 こんな人が炎天下の野外や蒸し暑い室内などにいれば、短時間で熱中症になるのは当然だ。腎臓が弱く、利尿剤を飲んでいる人も同じだ。

「利尿剤ではなく『βブロッカー』という薬を飲んでいる人も注意が必要です。この薬は脈拍を上昇させない働きがあり、脈拍が速いタイプの高血圧や心臓病、急に脈拍が速くなる不整脈の人を対象とした薬です。この薬を飲んでいると脈拍を上げて熱を下げることができず、熱中症になりやすいのです」(石原院長)

■糖尿病の人にスポーツドリンクは大敵?

 しかし、なんといっても熱中症の危険性が高いのは糖尿病を患っている人だ。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・西蒲田)の辛浩基院長が言う。

「神経障害で暑さを感じにくくなっているうえ、自律神経が障害されて汗をかく機能に問題が生じているケースが少なくありません。ただでさえ、糖尿病の人は多飲多尿で、脱水症状になりやすい。温度調節がうまくいかず、暑さも感じにくければ、熱中症が進行するまで気付きません」

 しかも、糖尿病患者の4割は高血圧症を発症しているだけに熱中症リスクはさらに高くなる。

「話題の新薬『SGLT2阻害剤』はとくに気をつけましょう。血液中の余分な糖分を尿と一緒に排出させるこの薬は、尿量を増加させ、脱水症状を起こしやすいのです」(辛院長)

 ちなみに熱中症対策として「スポーツドリンクがいい」と言われているが、糖尿病の人には当てはまらない。

「スポーツドリンク100グラムにつき、5~10グラムの糖質が含まれています。これをがぶ飲みすれば、今度は高血糖になり、糖尿病を進めることになりかねません。排尿作用の強いビールやカフェインが含まれているコーヒーは避けて、水やお茶にすべきです」(辛院長)

 ほかにも注意すべき病気や薬は多い。薬剤師の青島周一氏が言う。

「風邪で熱があったり、下痢で脱水状態にある場合は熱中症には気をつけましょう。とくに『抗コリン作用』のある薬は、使う際は気をつけなければなりません。発汗作用を抑えるため、体内に熱がこもりやすい。風邪薬やせき止めのほか、鼻炎薬や胃腸薬、睡眠補助剤、酔い止め薬などに使われています。体温調節機能をつかさどる自律神経に影響する向精神薬や抗うつ剤にも注意が必要です」

 これらの薬を混合して使っている人は、さらに熱中症発症のリスクが高くなる。健康を薬で支えている中年にとって熱中症は身近な怖い病気だということを知っておくべきだ。

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