病気に潜む「脳の異常」

記憶をつかさどる海馬などが委縮 「糖尿病」が脳を壊す

いまや医学の常識
いまや医学の常識(提供写真)

 糖尿病が脳の一部を萎縮させる――。このことは国内外の複数の研究で裏付けされている。先月発表された九州大学の研究では、糖尿病になると記憶をつかさどる海馬が萎縮することが報告された。熊本県久山町の住人1238人(うち286人が糖尿病発症)の脳の容積と糖尿病の有無を調べたところ、糖尿病歴が10年の人の脳は健康な人の2%、17年以上だと6%も脳の容積が減ったという。

 米ペンシルベニア大学放射線科の研究チームは、病歴10年になる2型糖尿病患者614人の脳MRI画像を分析したところ、年齢以上に脳の重量が減っていたと発表。減ったのは脳の灰白質で、糖尿病歴が長ければ長いほど、大きかった。

 オーストラリアの研究グループが55歳以上の2型糖尿病患者350人と、そうでない363人を比較したところ、前者の方が海馬・灰白質・白質の容積が減少し、空間認知力が低下していた。3年前の米国糖尿病学会での報告だ。

「糖尿病の人の脳が萎縮することは間違いありません。ただ、なぜ、糖尿病になると脳が萎縮するのかは、いくつかの推測がなされていますが、正確なことはわかっていません」(大学医学部の公衆衛生学教授)

 糖尿病で脳が萎縮するのは、高血糖により脳の血管が詰まり、神経細胞が壊れるからというのが一般的な考え方だ。しかし、糖分そのものが脳を萎縮させるとの考え方もある。

 糖分を過剰摂取すると脳内が高血糖状態となり、それを抑えるためインスリンが常に出ている状態になる。そうすると過剰なインスリンを分解する酵素が消費される。その酵素は脳が萎縮するアルツハイマー型認知症の原因といわれるアミロイドβタンパク質も分解する。高血糖状態が続くと、酵素はインスリンの分解を優先するため、アミロイドβタンパク質が脳内に蓄積され、アルツハイマー型認知症を発症してしまうというのだ。このことから、アルツハイマー型認知症を第3の糖尿病と呼ぶ医師もいる。

 実際、糖尿病の人は健康な人の2倍多くアルツハイマー型認知症になることが知られている。米国・ワシントン大学の研究者らもマウスの血糖値を高めると、脳内のニューロンを刺激してアミロイドβを増やしたと報告している。

 いずれにせよ、糖尿病が脳を萎縮させ、記憶ばかりでなく、さまざまな脳の機能を失わせていることはいまや医学の常識になりつつある。