「がんになる前より今は元気なんです」
都知事選に出馬したジャーナリスト・鳥越俊太郎さんは会見でそう語っていました。最初の大腸がんの手術からは11年、最後の肝臓がんの手術からは7年が過ぎ、「今は人生の中で一番健康」と断言。顔色や肌つやは健康そのもので、およそ76歳とは思えません。「大腸がんはステージ4でした」という告白に、「えっ」と耳を疑った人もいるでしょう。
大腸がんはステージ3までだと、5年生存率は80%ほど。胃がん(同47%)や肺がん(同22%)に比べ、比較的治りやすいがんといえます。しかし、ほかの臓器に転移があるステージ4は18%に低下。統計的に8割の方は5年以内に亡くなります。
2015年4月、俳優の今井雅之さん(享年54)は痩せ細った表情でステージ4の大腸がんであることを発表し、それから1カ月後に他界しました。あの会見が印象に残っている方もいるでしょうが、鳥越さんは紛れもなく「18%」に入ったのです。2人の違いはどこにあるかというと、手術ができるかどうか。それが一番大きいでしょう。
今井さんは手術ができず、抗がん剤治療を受けていましたが、鳥越さんは同じステージ4ながらも手術ができる状態でした。胃がんも肺がんもステージ4だと、手術はしません。
しかし、ステージ4でも、可能性があれば手術を行うのが大腸がんで、他のがんと大きく違うところです。
大腸の中でも、肛門に近い部位を直腸といいます。鳥越さんの大腸がんは直腸がんで、肝臓と肺に転移や再発しやすく、鳥越さんも両方の臓器に転移しています。
この転移についても手術できるケースは、大腸がんによる転移がんの治療で、手術できれば治る可能性が十分あるのです。
転移が見つかって、手術の適応になるのは、いくつか条件があります。転移した部分がすべて除去できる、手術後の肝臓や肺の機能が保たれる、手術可能な体力がある、の3つ。
鳥越さんは、肺でも肝臓でも、手術の適応になったということです。肺や肝臓の転移がんを切除した場合の5年生存率は30~50%とされていますから、鳥越さんの手術はいずれもうまくいったことがうかがえます。
鳥越さんは50代から年に1、2回人間ドックを受けていたそうですが、クリニックが人間ドックをやめたことで3年間、人間ドックを受けずにいたといいます。そして05年、下血や下痢、左下腹部の違和感を不安に思い、虎の門病院を受診して大腸がんが見つかりました。今井さんも検診を受けていなかったため、大腸がんが腸を塞ぐほど大きい状態で発見されました。
大腸がんは、他のがんに比べて治りやすいがんなのは事実ですが、だからといって、検診をおろそかにしていいことにはなりません。食の欧米化で、大腸がんにかかる人は急増していて、今や胃がんを抜いて部位別トップ。大腸がんを早期発見するための便潜血検査は、毎年受けることが大切です。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁