良医が警告 やめてはいけないクスリ

骨粗鬆症を恐れて服用を中止 食道がんになってしまった

自己判断は禁物だ
自己判断は禁物だ(C)日刊ゲンダイ

 このところ、週刊誌などで報じられた「飲んではいけない薬」についての話題が患者を混乱させている。よく分からないまま報道をうのみにしてまれな副作用を恐れ、勝手に薬をやめてしまうと、かえって深刻な健康被害をもたらしかねない。

 胃酸過多や逆流性食道炎の患者には、PPI系と呼ばれる「プロトンポンプ阻害薬」(ネキシウム、タケプロン、パリエットなど)が使われる。胃酸の分泌を抑える薬だが、「長期間飲み続けると骨粗鬆症になりやすく、骨折する割合が増えるという調査もある」と指摘されている。

 逆流性食道炎は、胃酸が食道の方へ逆流して食道に炎症を起こす病気。胸焼け、吐き気、酸っぱいものがこみ上げるといった症状が表れる。まずは食生活や肥満防止といった生活習慣の改善を行い、改善がなければPPI系の薬を飲んで胃酸を抑える治療が行われる。

 ただ、病状が重い人が薬をやめると再発するケースが多く、医師と相談しながら長期間飲み続ける必要がある。ここで、過度に副作用を怖がって薬をやめてしまうと、取り返しのつかないことになりかねない。

 米国消化器病学会のインターナショナルメンバーを務める専門医「江田クリニック」院長の江田証氏は言う。

「食道の粘膜は『扁平上皮』で覆われています。その扁平上皮が逆流性食道炎などによって長く胃酸にさらされていると、徐々に胃や腸の粘膜である『円柱上皮』に変質し、『バレット食道』という状態になってしまいます。バレット食道にはさまざまな遺伝子異常が起こり、がんが生じるケースもある。バレット食道がある人は、薬でしっかり胃酸を抑えておかないと、食道がんになりやすくなってしまうのです」

 実際、逆流性食道炎で通院していた患者が自己判断で薬をやめてしまったことで食道潰瘍になって吐血したり、食道がんになったケースが最近2例あったという。

 2例とも、薬を自己判断で中止してから1年半後、また調子が悪くなったと再来院。内視鏡検査をしたところ食道がんが見つかり、すぐに胃と食道を全摘出する大手術が行われた。一命は取り留めたが、ヘタをすれば手遅れになっていた可能性もあったという。

「薬の副作用については、医師のほとんどが分かっています。そのうえで、患者さん個々の状態をしっかり診ながら、薬の利益とリスクをてんびんにかけて処方しているのです」(江田氏)

 骨粗鬆症になるかもしれないと怯えて薬をやめた結果、食道がんになってしまっては後悔してもしきれない。