重大病の“サイン”かも…高齢者の「むくみ」を甘く見るな

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢になると足がむくみやすくなる。比較的ありがちな症状だが、甘く見ていると命にかかわる重大病を見逃してしまうかもしれない。高齢者の病気に詳しい「東京都健康長寿医療センター」(東京・板橋区)循環器内科の原田和昌副院長に話を聞いた。

 一般的に、高齢者は若い世代に比べて運動不足になるため、むくみが起きやすいという。
「血管には動脈と静脈があり、動脈は心臓から押し出される圧力で血液を全身に循環させています。一方の静脈は、全身に栄養を届け終わって心臓に戻っていく血液を循環させていて、足の筋肉の圧力をポンプとして利用します。運動不足が続くと足の筋力が弱り、ポンプの力が衰えてしまう。すると、静脈の循環が滞り、余分な水分や老廃物が血管から染み出して、むくみが起こるのです」

 この静脈の滞りがさらにひどくなると、「深部静脈血栓症」(エコノミークラス症候群)を発症してしまう。震災時などの避難生活で車内での寝泊まりが続き、体を長時間動かさずにいると静脈が滞り、足がパンパンにむくむ。そして、静脈でできた血栓が肺などに飛んで、ショック死を引き起こすのだ。

 高齢者は血流が滞りやすいため、普段から6時間以上同じ姿勢でいることは避けたい。

 ある程度、体を動かしているのに足がむくんでいるという人は、他の病気の疑いがある。

■「よくあること」とは考えない

 まずは、心臓、腎臓、肝臓といった重要臓器の機能障害によるむくみに注意したい。

「最も危険なむくみは『心不全』によるものです。両足がむくんで、歩くと息切れ(労作時息切れ)が起こります。心臓に障害が起きて静脈全体の圧力が上昇し、静脈から筋肉やリンパに水分などが漏れ出してむくみが生じます。死に直結する病気なので、兆候が見られたらすぐに病院で診察を受けてください」

 腎障害によるむくみも深刻だ。これは両足だけでなく、体全体がむくむという。

「高血圧や糖尿病を長期間放置したり、過度の疲労などで腎臓に負担をかけ続けると、腎障害が起こります。すると、腎臓での水分排出のコントロールがうまくいかなくなり、体がむくむのです。腎臓病自体は、一般的にはゆっくりと進行して最後に腎不全から透析に至るもので、直ちに死に直結することはありませんが、タンパク質を尿から大量に失ってむくみが起こる『腎症・ネフローゼ症候群』が突然発症した場合は注意が必要です。腫瘍随伴症候群の可能性が高く、とくに肺がんが疑われます」

 がん細胞に対抗するために、体内で生まれる抗体と抗原が結合した免疫複合体の作用で起こる膜性腎症が原因。腎臓に問題がなかったのに、突然、体全体のむくみが表れたら、すぐに医師の診察を受けるべきだ。

 また、高齢者には「肝硬変」によるむくみも多い。お腹や足にむくみが生じる。腹水がたまるため柔らかく、“カエル腹”とも呼ばれている。これも早めの治療が必要だ。

 臓器の機能障害ではなく、「低栄養」によるむくみも侮ってはいけない。高齢になって食事量が極端に低下したり、偏食が続くと、血清中にあるタンパク質の一種「アルブミン」が不足してしまう。

「アルブミンには血管内外の水分のバランスを調整する役割があるため、アルブミンが不足すると水分が血管内から外に染み出してむくみが出るのです」

 低栄養の人は心血管疾患で死亡しやすくなったり、免疫力が低下して感染症などさまざまな病気にかかりやすくなってしまう。放置してはいけない。

 高齢者のむくみは、体に何らかのトラブルがあることを訴えている“サイン”といえる。年を取ったらよくあることなどと軽く考えず、医師の診断を受けたい。

関連記事