良医が警告 やめてはいけないクスリ

生活習慣改善しても「脂質異常症」治療薬を飲むべき場合

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 Aさんが脂質異常症を指摘されたのは52歳。脂質異常症がある人の多くは、ほかの生活習慣病も抱えているケースが多いが、Aさんも糖尿病と高血圧があった。ただし、いずれも数値が軽度の範囲。そこでAさんは「食事と運動で対処しよう」と考えた。

 薬を勧める病院に背を向け、スポーツジムに入会。徹底した運動と食事制限でやせるが、気を抜くと太る。そのたびに運動量を増やし、60歳の時には1日の歩数1万5000歩。ジムでの筋トレにも励んでいた。

 ある時、トレーナーから運動負荷テストの存在を聞いた。意気揚々と受けたAさんだったが、結果は驚くものだった。

「運動がある一定の強度を超えると、心臓が酸欠に。すぐに病院で精密検査をと言われました」

 結果は「冠動脈が90%以上の狭窄を起こしていて、いつ心筋梗塞を起こしてもおかしくない」。直ちに入院となり、ステント(金属製の網)で血管を広げる手術が行われた。医師からは「なぜずっと治療を受けずに放置したのか。心筋梗塞を起こす前に見つかってよかった」と言われた。

 脂質異常症の治療薬「スタチン」に対し、重篤な副作用の危険性だけを説き、「飲む必要がない」と否定的な表現を並べる報道もあるが、専門医の多くは、声を大にして反論する。

「脂質異常症は心筋梗塞に直結します。特にLDLコレステロールが180以上なら、心筋梗塞の確率が13倍も跳ね上がる遺伝子異常の家族性高コレステロールが含まれている可能性が大いにあり、この場合は必ず薬を飲む必要があります」(昭和大学医学部糖尿病・代謝・内分泌内科学部門の平野勉教授)

 ましてや、ほかの生活習慣病も合併していれば、基準値の140を超えた時点、つまり「180以上」を待たずに薬物治療が必要。副作用の問題はあるが、専門医であれば、その前提で細心の注意を払い治療にあたる。もし、副作用を見過ごす医師がいれば、あるいは、脂質異常症だが薬はいらぬと主張する医師がいれば、「脂質異常症の最新知識に乏しい門外漢と思ってもいい」と話す専門医もいるほどだ。

「脂質異常症と言われて食事制限や運動を行ってもLDLコレステロールが180以上の人には薬が必要です。『生活習慣改善さえすれば薬はいらない』との考えは捨てるべきです」(平野教授)