数字が語る医療の真実

がん患者は介護者がいると寿命が縮む?

 緩和ケアが肺がん患者の寿命を延ばすという研究結果がある一方、意外な研究結果もあります。

 この研究は、進行がんの患者を対象に、「緩和ケアを診断直後から早期に導入するグループ」と「3カ月後に導入するグループ」で、患者の生存率や介護者のうつ症状などが改善することを示したランダム化比較試験です。

 研究に参加した患者の中には、介護者がいなかった人も含まれており、介護者の有無によって患者の生存率に差があるかどうかを後付けで解析しています。その結果は、「介護者のいる患者で生存率が高いのでは」という予想に反し、「介護者を持つ患者」で1.52倍も死亡リスクが高いというものでした。さらに、「結婚しているか否か」で分析してみると、「結婚している患者」で2.92倍も死亡リスクが高く、「結婚せず介護者もいない」患者でもっとも生存期間が長かったという結果でした。

 ただ、これはランダム化比較試験そのものの結果ではなく、この研究に参加した対象者中、「たまたま」介護者がいる患者といない患者で比較したものですから、何か大きなバイアスの可能性もあります。

 もっとも考えやすいのは、「介護者がいたり、結婚している患者は、より重症だったのではないか」ということですが、この研究では「重症度に大きな差はなかった」となっています。バイアスでないとすると、「介護者に対する後ろめたさ」などのストレスが、患者自身を追い詰めて予後を悪化させているというような仮説も立てられるかもしれません。

 いずれにしても、“介護者がいないことが意外に生存にとっていいかもしれない”という研究結果は心に留めておきたいものです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。