血圧を下げる薬、降圧剤を「飲んではいけない」と主張する医師は、その理由として「血圧が下がり過ぎると血管が詰まって脳梗塞になる」「生命力を下げ、うつ病のようになってしまう人もいる」などを挙げる。
しかし、降圧剤をやめたばかりに、命に関わる事態に至る人は多い。
数年前に健診で高血圧を指摘されたAさん(58)の血圧は148/100。高血圧について調べると、「血圧160/100までは治療が必要ない。現在の高血圧の基準は、製薬会社の陰謀」といった内容の記述を見つけた。そこで、飲み始めた降圧剤をやめ、代わりに運動を始めた。
しかし、3年後に頭痛で受診。血圧は200/110。心電図では心肥大が発覚した。尿からはタンパク質が、CTではラクナ脳梗塞が見つかった。
Bさん(55)は血圧150/100。病院にも行かず、薬も飲んでいなかった。すると、背中に鈍痛を感じた数日後、出勤時に激しい痛みに襲われ救急搬送。致死率の高い急性大動脈解離を起こしかけていた。
高血圧性心疾患が専門の東京医大病院循環器内科兼任教授の桑島巌医師は次のように指摘する。
「高血圧は自覚症状がない疾患ですが、放置すると確実に動脈硬化が進行し、脳梗塞や大動脈解離のリスクを高めます。さらに、高血圧では心臓から血液を送り出すためのエネルギー量が増えていきます。心臓は次第に肥大し(心肥大)、ついにはバテてきます。これが心不全という心臓の末期的状況です」
「高血圧→心肥大→心不全」は、高血圧と診断されたが、長く薬を飲んでいない人に非常によく見られる。
「高血圧で薬物治療が必要な人に、脳梗塞を起こすほど血圧が下がり過ぎる人やうつ病のようになる人は、現実にはほとんどいない。むしろ、血圧がなかなか下がらない人の方が圧倒的多数です」
国立がん研究センターでは「10年間で脳卒中を発症する確率」を多目的コホート研究から出している。それによると、脳卒中発症の人口寄与危険度割合(あるリスクを完全になくせた場合、防ぐことが可能となる脳卒中発症者の割合)は高血圧が断然トップで、35%と3分の1を占めている。
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