医者も知らない医学の新常識

「良い心肥大」と「悪い心肥大」は何が違うのか

アスリートの心臓は良い心肥大(日本選手権男子200mで優勝した飯塚翔太)(C)日刊ゲンダイ

 リオ五輪がもうすぐ始まります。各国代表の“超人たち”の活躍を楽しみにされている方も多いと思いますが、彼らの心臓はどうなっているのでしょうか。

 アスリートの心臓は、その筋肉が手や足の筋肉と同じように厚くなっています。これは「スポーツ心臓」という名前の心肥大です。一方で、高血圧や心臓の病気でも心肥大は起こります。こちらは病的な心肥大です。

 ところが、見た目はアスリートの心肥大も、病気による心肥大も、心臓の壁が厚くなっており、違いはありません。それでは、一体何が違うのでしょうか。

 アスリートの「スポーツ心臓」は、正常な心臓の筋肉が肥大しています。しかし、病的な心肥大は筋肉よりも線維などの成分が異常に増殖して、見た目は肥大であっても、実際には心臓の働きは低下しているのです。

 ただし、運動も高血圧も、「心臓に負荷がかかる」という点には違いはありません。同じように負荷がかかったのに、どうして心肥大の内容に違いが出るのでしょう? 昨年の「セル・メタボリズム」という専門誌に掲載された論文によると、運動では「マイクロRNA」という特殊な遺伝子のかけらのようなものが増えるので、正常な筋肉が肥大します。ところが、高血圧のような病的な負荷では、そうした遺伝子産物の増加は起こらない。これが両者の違いだと説明されています。

 心臓の肥大する仕組みというのも、意外に奥が深いもののようです。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。