気になる手の震え…「本態性振戦」はなぜ起こる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 手が震えて文字がまともに書けない。コップがうまく持てず、お茶をこぼしてしまう。そうした日常的な手の震えに悩む高齢者は多い。震えの原因や治療法について、東京都健康長寿医療センター神経内科の村山繁雄部長に詳しく聞いた。

 誰でも緊張したり、興奮すると手が震えてしまうことがある。これは「生理的振戦」と呼ばれ、病気ではない。しかし、ほんの少しの緊張でも震えが止まらなくなったり、字が書けなくなるなどの症状が頻繁に起き、日常生活に支障を来すようになると、「本態性振戦」と診断される。

「本態性」とは原因が分からないという意味で、「振戦」は戦の時の武者震いからの転用だ。命に別条はないが、自身で抱いている“ボディーイメージ”を損なったり、他人の目が気になる、実際、日常動作に影響が出るなど悩む人も多い。

 なぜ、こうした震え(振戦)が起こるのか。

「人は興奮したり、緊張すると、手や首、時に声、まれに足の震えが起きますが、本態性振戦の詳しいメカニズムについてはまだ研究中です。加齢をはじめ、何らかの理由で脳の機能のバランスが崩れ、震えが出やすくなることが分かっています。20代と60歳過ぎの2つのピークがあることも分かっており、ほぼ10人に1人は罹患しているという報告もあります」

■まずはパーキンソン病ではないか鑑別を

 自分でコントロールできないような手の震えは、パーキンソン病、甲状腺機能亢進症などにも見られる症状のため、一度、神経内科で診察を受けたほうがいい。

 とりわけ、パーキンソン病による手の震えかどうかを、まずはきちんと見極めたい。

「本態性振戦の震え方は、細かく速く、動作時に起きるのが特徴です。お酒を少し飲むと震えが止まることも特徴ですが、それに頼るとアルコール依存になってしまう。一方、パーキンソン病の震えは安静にしている時に起こり、ゆっくりです。全身のこわばり、動きの鈍さ、歩行障害なども見られます。ただ、震えの症状だけで完全に見分けることは難しい。両者の鑑別のため開発された脳の『ダットスキャン』と呼ばれる検査が陰性だった場合は、本態性振戦の可能性が高くなります。また、本態性振戦は両親のどちらかが同じ振戦を患っているケースが多く、報告によっては5割を超えるといいます」

 本態性振戦とパーキンソン病は別の病気とされている。しかし、ごくわずかだが本態性振戦からパーキンソン病へ移行する例や、本態性振戦で亡くなった患者の脳を調べると、非常に軽いパーキンソン病の変化を示したという報告もある。手の震えが気になる人は、やはり神経内科を受診した方がいい。

 神経内科では、本態性振戦に対して、興奮度を下げて震えの症状を改善する薬を処方する。

「本態性振戦は、緊張・興奮によって起きるため、心臓の脈拍や血圧を下げる薬で興奮状態を落ち着かせます。β遮断薬が第一選択薬ですが、副作用に注意が必要です。また、疲れなどがたまると震えがひどくなります。悩みを抱えている人は体調と相談しながら、薬を服用してうまく病気と付き合っていくことが大切です」

 欧米では、個人の尊厳が損なわれる病気だとして、原因や治療法の研究が行われている。近年、日本でも少しずつ振戦の存在が見直されている。現時点では、まだ明確な治療法はないが、研究が進めば完治が可能になるかもしれない。

 ただ、薬剤で震えを緩和するだけでも、精神的な苦痛から解放される。年だから仕方がない……と思いながら悩んでいる人は、まずは神経内科に相談だ。

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