良医が警告 やめてはいけないクスリ

「エリスロポエチン製剤」抜きに腎性貧血は治療できない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 貧血というと、「鉄分不足」をイメージする人が多いが、腎機能が低下する慢性腎不全でも貧血が起きる。日本腎臓学会認定腎臓専門医・日本透析医学会認定専門医資格を持つ、「松尾内科クリニック」(東京・桜新町)の松尾孝俊院長が言う。

「赤血球は、骨髄中の赤芽球前駆細胞に“赤血球になれ”というシグナルが出ることで赤血球に変化します。このシグナルとなる物質がエリスロポエチン(EPO)です。EPOは腎臓で作られるため、腎機能が低下すると、その産出量が減って、結果的に慢性的な貧血になるのです」

 この病気を治療するには「EPOと同じ働きをする物質」を外側から補うことが必要になる。そのため開発されたのがエリスロポエチン製剤で、「エポエチンα」や「エポエチンβ」のほか、「ダルベポエチンα」や「エポエチンβペゴル」がある。

 報道では、これらの中に「飲まない方がいい薬がある」というが本当か?

「EPO製剤は透析患者さんの予後を劇的に変えた注射薬。これ抜きで慢性腎不全になって透析が必要となった患者さんの貧血治療はできません。しかも、複数あるEPO製剤は作用時間の長さを変えるために一部の糖鎖を変えているだけ。なのに一部の薬だけを批判するのはナンセンスです」

 むろん、国際的に使われている薬だけに、厳しい目にさらされるのは当然だ。例えば「薬価が数千円から数万円と高い」「透析液の清浄化やダイアライザーの使い方で貧血の改善が見られる」「EPO製剤の血中濃度が高いほど貧血が改善するわけではなく、それが低過ぎても高過ぎても問題がある」などの意見がある。

 さらには製薬会社の社員が医師の臨床試験に介在し、関係者が処分を受けるという事件も起きている。

「そのため、EPO製剤に厳しい目を向ける人もいるでしょう。だからといって、すべての透析患者さんがEPO製剤抜きで治療できるなんて思っている人はいないはずです。EPO製剤がなかった時代は、腎性貧血を改善するために輸血をしていたと聞いています。そのことで感染症にかかり、大勢の方が亡くなった。EPO製剤に代わる治療法がない現在、EPO製剤を使わずにそんな時代に戻そうなんて誰も思いませんよ」

 自分が使っている薬を「飲まない方がいい」と報じられるとドキッとする。だからといって勝手に薬をやめては命取りだ。まずは身近な医師や薬剤師に相談しよう。