良医が警告 やめてはいけないクスリ

血糖硬化剤・インスリン注射 自己判断でやめて深刻事態に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 Aさん(55)が2型糖尿病を指摘されたのは13年前。真夏、疲れがひどく、倒れて病院に運ばれ判明した。血糖値は600(㎎/dl)を超え、すぐに入院となった。

 50代で亡くなった父親も重症の糖尿病で、死因は心筋梗塞。母親が「親不孝者」と涙するのを見て、一時はインスリン注射、食事制限、定期的な通院を続けたが、自覚症状がなく、仕事が多忙を極めるようになったこともあり、病院へ行かなくなった。

 3年前、職場で息ができないような状況になり病院へ。「インスリン注射で対処できるレベルではない」と医師に言われ、その日から人工透析になった。1回5時間、週3回の人工透析を受けている。このまま一生透析から逃れられないことを考えると、死んだ方がましとも思うという。

 自己判断で薬をやめてしまったことが深刻な事態を招いてしまった。

 糖尿病の治療は、かつては「薬の開始はできる限り遅く」だった。しかし今は、「生活習慣改善で数値が下がらず、悪化が避けられないなら、早い段階で薬を使い血糖値を下げる」が主流。「進行してから薬を投与しても病気の進行を効果的に抑えられない」と東邦大学医療センター大森病院糖尿病・代謝・内分泌センターの弘世貴久教授は指摘する。

 人工透析に至る前の2型糖尿病の治療は、インスリンの分泌を促したり働きを高める、あるいは糖の吸収や排泄を調節するDPP-4阻害薬などの経口薬の服用、GLP-1阻害薬の注射、インスリン療法だ。インスリン療法を嫌がる人は多いが、すぐにインスリン療法が必要な人もいる。

「インスリン療法を『待てない患者』は膵臓が能力ギリギリまで働き、代謝異常が起こっている。何らかの自覚症状があれば、その可能性が高い。すぐにインスリン治療を始めなくてはなりません」(弘世教授)

 一方、「待てる患者」も「薬なしでOK」という意味ではない。食事内容の改善で2~3カ月様子を見て、HbA1cの数値が十分に下がらなければ薬の出番。

「薬物治療をためらうことで、糖尿病腎症で人工透析になったり、網膜症で失明する人がいるのは事実です」(弘世教授)