Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【大橋巨泉さんのケース】がん治療と緩和ケアのバランス

大橋巨泉さん(C)日刊ゲンダイ

 がんで亡くなる人は、8割が激痛に苦しむとされます。痛みは末期だけでなく初期からあり、そういう痛みを取り除くために使うのが、医療用麻薬です。“麻薬”というと怖いイメージがありますが、適切に使う限りよからぬことはありません。

 ある30代の女性は乳がんで脳などへの転移もあり、完治は見込めない状態でした。抗がん剤のメリット・デメリット、期待される余生の長さなどの説明を受け、治療は脳転移への放射線にとどめて抗がん剤を使わないことを選択。痛みを医療用麻薬で抑えて海外旅行や大好きなワインを楽しみながら最期を迎えました。女性が思い描いた通りの死だったと思われ、今でもすてきな最期だったと思い出します。

 ところが、日本の医療用麻薬の使用量は20分の1と少なく、痛みに苦しんでいる人が多いのが現状です。

 そんな流れで、がんの痛みや精神的苦痛を取り除く緩和ケアという概念が生まれました。緩和ケアはがんと診断されたときから必要に応じて受けた方がベターで、受けない方より充実した余生を送れることが分かっています。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。