海外で話題に 「ポケモンGOがうつ病に効く」は本当か?

うつ病患者の依存対象になってしまう懸念も…
うつ病患者の依存対象になってしまう懸念も…(C)日刊ゲンダイ

 世界的な社会現象になっているスマホ向けゲーム「ポケモンGO」が、うつ病の改善に効果的だと話題になっている。本当だろうか。

「ポケモンGO」は、GPS位置情報とAR(拡張現実)を利用したゲームで、現実の街中や公園、海、川、山など、あらゆる場所に出現するポケモンを収集するために、あちこち歩き回らなければならない。

■「ポケモンGO」が脳細胞を活性化?

 海外では、それまで外出を避けて引きこもっていたうつ病患者がポケモン探しのために外出するようになり、患者が「医者やセラピストがすすめるどんなものよりも、自分のうつに効いている」といった声を上げている。

 これを受け、ネットやゲームと健康の研究をしている米国のジョン・グロール医師は、「外に出て新鮮な空気を吸い、他人と交わるシンプルな行為が、どれほど心の健康に良い影響を与えるかは証明済み。うつ状態のときに体を動かそうという気持ちになるのは難しいが、そのモチベーションを高めるのに有効だ」とコメントしている。

 また、屋外で日の光を浴びながら歩き回ってポケモンを収集する行為は、うつ病と関連が深い脳の神経伝達物質の分泌を促したり、活性化させる効果も指摘されている。

 不安を軽減したり、心のバランスを整える作用がある「セロトニン」は、日光を浴びることで生成され、ウオーキングなどの苦痛を伴わない規則的なリズム運動が分泌を促す。やる気や意欲を起こさせる働きがある「ドーパミン」は、目的のポケモンを捕獲できたとき、興奮や喜びを感じることによって分泌される。

■心身の疲労が症状を悪化させるリスクも

 いずれも、不足するとうつ病を引き起こす一因になると報告されている。となると、やはりポケモンGOにはうつ病の改善効果があるのだろうか。元陸上自衛隊衛生学校心理教官で、メンタル・レスキュー協会理事長の下園壮太氏は言う。

「たしかに、歩くことはうつ病の患者さんにとってプラスです。体を動かすことで脳も活性化し、自信を取り戻すことができます。ポケモンGOがそのきっかけになるケースもあるでしょう。しかし、だからといってうつ病が改善するのかといえば、疑問が残ります」

 まず、「疲労」を悪化させるリスクがある。

「現代社会のうつの主体は心身の疲労が原因です。疲労がどんどん蓄積していくことで、食欲がなくなる、眠れなくなるといった症状が表れ、そのまま疲労が回復しなければ、不安感、自信喪失、負担感などの精神的な症状が表れ始めます」

 そうしたうつへの基本的な対処法は休むこと。休職や病気休暇などでようやく休養できた人が、ポケモンGOに熱中するあまり、疲れを感じずに長時間、歩き続けてしまう。しかも、これから暑さが本格化する。改善どころか、逆にうつ病の症状を悪化させることが危惧されるという。

 実際、うつ病患者のリハビリは慎重に行われる。ウオーキングひとつにしても、患者によっては、まず玄関で靴を履くことだけをやってみるところから始める。そこから、自宅の周辺を1周して戻ってくることを目標にして、徐々に5分、10分単位で歩行時間と距離をのばしていく。同時に、ダメだと思った時はリハビリを中断して休む勇気も持たせることも重要だという。単純に外を歩き回ればOKというものではないのだ。

「また、ゲームによって神経伝達物質の分泌が促され、うつ症状を改善できるというのも安易な考えのように感じます。ポケモンGOが登場する以前にも、楽しみや興奮を感じさせるものはゲーム以外にもたくさんありました。それでも、大きな効果は報告されていないのです」

 精神科医の中には、「うつ病はさまざまな依存症を併発しやすいため、患者さんの依存対象を増やしてしまう懸念がある」という声もある。

 ポケモンGOだけではうつ病の治療にはならない。すでにうつ症状がほとんどない状態の患者が、外出するきっかけになる効果がある程度に考えておいた方がいい。