数字が語る医療の真実

大橋巨泉さんの死因はモルヒネ系鎮痛剤の誤投与なのか?

最後まで戦い続けた大橋巨泉さん
最後まで戦い続けた大橋巨泉さん(C)日刊ゲンダイ

 タレントの大橋巨泉さんが亡くなりました。最期の最期まで世の中に発信し続け、戦い続けたことは見事というほかありません。

 ただ、その時の夫人のコメントが、緩和医療の現場を揺るがしています。

「先生からは『死因は“急性呼吸不全”ですが、その原因には、最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい』とうかがいました。もし、ひとつ愚痴をお許しいただければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与がなければ、と許せない気持ちです」というコメントがネット上で流れています。

 こうした発言の影響力は大きく、日々、在宅医療の現場で多くのモルヒネ系鎮痛剤を使っている身としては、ひとこと言っておかないと、という感じです。

 モルヒネの副作用として、「呼吸が抑制される」というものがあります。その呼吸抑制が死因のひとつというのはあり得る話です。痛みのコントロールが十分でないために投与量が多くなったり、あるいは痛みがひどく短時間で薬の量を増やす場合など、呼吸抑制を経験することはしばしばあるからです。

 しかし、緩和医療の現場において、モルヒネ系鎮痛薬の効果は絶大です。この連載でも取り上げてきたように、モルヒネによる鎮痛を含む緩和ケア全体では、最新の抗がん剤に匹敵する生存期間の延長も示されています。私自身、副作用に十分注意しながら、呼吸不全を恐れて痛みが十分にコントロールできないなんてことにならないよう、今後も多くのモルヒネ系鎮痛剤を使っていくつもりです。

 モルヒネを使わない医者はダメ医者です。その上手な使い方こそ、われわれ臨床医が問われていることなのです。「上手に使いますから大丈夫です」──。そんなふうに言って、患者さんに受け入れてもらえる医者になりたいものです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。