これで痛みを取り除く

膵臓がんの痛み対策は腹腔神経叢周囲に“アルコール注入”

 元横綱千代の富士(九重親方)が膵臓がんで亡くなった。

 膵臓は胃の後ろにある長さ15センチほどの細長い臓器。膵臓がんになると胃の辺りや背中に痛みが表れる。東邦大学医療センター大森病院・緩和ケアセンターの大津秀一センター長(緩和医療専門医)が言う。

「膵臓がんは、オピオイド(医療用麻薬)が効きにくい難治性の神経障害性疼痛を合併しやすいがんの代表格です。痛み自体が強いというより、他の臓器のがんに比べて治療で痛みが取りづらいのです」

 膵臓がんの大半は、膵臓を貫いて走る細い管の中の細胞にできる。最初は他の固形臓器のがんと同じように、内圧の上昇や被膜の伸展などによる「内臓痛」の痛みが表れる。内臓痛は痛い場所がはっきりしない鈍痛が多く、オピオイドがよく効く特徴がある。ところが進行して、徐々にがん細胞が被膜を破り、周囲に浸潤してくると、オピオイドが効きにくい神経障害性疼痛が加わってくるのだ。

「膵臓は、周囲の神経が網目状に密に集まっている腹腔神経叢と隣接しています。がんが進行すると、周囲の神経を直接、圧迫したり浸潤することで神経障害性疼痛を合併するのです。途中でオピオイドが効きづらくなるので、患者さんの中には耐性ができたと思う人もいます」

 神経障害性疼痛は、しびれ感やピリピリした異常感覚を伴う痛みで、内臓痛とは痛みの症状が異なる。膵臓のがんのできた場所によっては、背中にも痛みが表れる場合があるという。

「神経障害性疼痛に対しては、オピオイドをベースに抗けいれん薬や抗うつ薬などの鎮痛補助薬を組み合わせて痛みを取ります。それでも効きが悪い場合には、麻酔科によって行われる神経ブロックを検討します」

 膵臓がんをはじめとするがんの上腹部痛では、主に「腹腔神経叢ブロック」が有効。腹腔神経叢周囲のスペースにアルコールを注入する方法だ。日本緩和医療学会のガイドラインでは患者の70~90%で長期の痛みの緩和を得ることができるとされる。

「ただし、行う麻酔科医には熟練した腕が必要になりますし、専門家も決して多いわけではありません。残念ながら施行できる医師がいない施設もあります。一方で、上手な麻酔科医が行えば劇的に痛みが取れて、オピオイドの使用量も減らすことができます」