良医が警告 やめてはいけないクスリ

抗凝固剤「ワーファリン」は心原性脳梗塞を7割減らす

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 心筋梗塞や脳梗塞の予防のために使われるのが抗凝固剤の「ワーファリン」だ。血液をサラサラにする薬といわれていて、血液凝固因子の合成に関わるビタミンKの働きを抑えることで、血を固まりにくくして血栓ができるのを防ぐ。

 高齢化で増加している心房細動の患者にも、心原性脳梗塞を予防するために抗凝固剤がよく処方される。心房細動は心臓が細かく不規則に収縮を繰り返す病気で、血流が悪くなるため血栓ができやすくなる。血栓が移動して脳の血管で詰まると脳梗塞を引き起こす。

 ただ、出血しやすくなる副作用があり、「脳出血や消化管出血で重症になる高齢者が多い」などと報道されている。しかし、だからといって服用を中止すれば、患者のマイナスが大きいという。

 全国の国公私立大学医学部の非常勤講師を務める「武蔵国分寺公園クリニック」の名郷直樹院長は言う。

「出血しやすくなるのはたしかですが、ワーファリンの脳梗塞予防効果は絶大です。信頼できる大規模研究では、心房細動による心原性脳梗塞を7割減らすという報告があります。心房細動の患者さんは平均で年間4%が脳梗塞を発症しますが、ワーファリンを服用するとそれが1.2%まで減少するのです。一方、ワーファリンによる大きな出血トラブルが起こるのは年間1%足らず。極めて少ない重篤な副作用のリスクよりも、メリットの方がはるかに大きいことが分かっている。議論の余地はありません」

 実際、脳出血を怖がって飲んでいるワーファリンの量を自己判断で減らしたり、服用を中止した患者が、途端に脳梗塞で倒れてしまったケースもあるのだ。

 ただ、ワーファリンは相互作用を起こす薬剤や食事が多い。抗リウマチ薬や骨粗しょう症の薬との併用は避けなければならないし、納豆、クロレラ、緑黄色野菜などを摂取しすぎると、薬の効果を弱めてしまう。そのため、クリニックや病院で定期的に薬の効果をチェックしながら服用する必要がある。面倒くさがって飲むのをやめてしまう患者もいるが、深刻な事態を招きかねない。

「健康日本21推進フォーラム」の調査によると、心房細動および心房粗動の患者は推定約130万人で、このうち約75万人強にワーファリンが処方されている。しかし、1年間の観察期間に服用を中止する患者が約3万3000人にのぼり、うち約77%が「抗凝固薬で脳梗塞の発症リスクが軽減される」という意義を知らなかったという。

 なぜ、自分がその薬を飲んでいるのか。担当医にしっかり確認することが、正しい薬を正しく服用するための第一歩だ。