体にも優しい 食道アカラシア新治療「POEM」のメリット

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 食べ物が食道につかえて通らない「食道アカラシア」の新治療法が保険適用になった。効果が高く、体の負担が少なく、治療費も安い。

 食道アカラシアは、脳から食道への神経伝達路になんらかの障害が起こり、食べ物を食道から胃へ送り込めなくなる疾患だ。

 原因の特定は難しく、発症すると自然には治らない。食べられないだけでなく、嘔吐、胸痛、背中の痛みなどの症状があり、生活の質は著しく低下する。食道がんが合併するとの報告もあるという。

 従来の治療法は「投薬」、風船で食道を膨らませる「バルーン拡張術」、そして食べ物の通りを邪魔している食道と胃の境目の筋層を切除する「外科手術」から選択していた。しかし、薬やバルーン拡張術は十分な効果が得られず、最終的に手術を行ったものの「しないよりはまし」といった結果になる患者や、体の負担を考えて躊躇する患者が少なくなかった。

 昭和大学江東豊洲病院消化器センター長の井上晴洋医師が、世界初の方法で食道アカラシアの治療を行うようになったのは2008年。

 内視鏡で食道と胃の境目の筋層を切る方法で、「経口内視鏡的筋層切開術=POEM(ポエム)」という。

「食道アカラシアの治療は、約100年前にヘラー医師が開発した外科手術が長らく行われてきました。腹部を切開し、外側から食道と胃の境目にアプローチし、筋層を切ります。近年は腹腔鏡が用いられていますが、やはり外側からのアプローチであることに変わりありません」

 一方、POEMでは、食道の「内側」から粘膜を切開して粘膜下層に入り、筋層を切る。「外側」から行う従来法と違い、体に傷がつかない。出血が少なく、感染症のリスクも低い。そして、最も着目すべき点は治療効果だ。

「POEMであれば、筋層切開の長さを簡単に自由に調整できます。短くも長くも切ることができる。これによって、たとえば60点程度の満足度しか得られなかった患者さんが、80点以上の満足度を得られるようになったのです」

■効果も従来法より上

 食道アカラシアとひとくくりにしているが、実はいくつかのタイプに分かれており、それらによって「どれくらい筋層を切ればいいか」が異なる。長く切るべき患者、短くてもよい患者がいる。

 しかし、従来の外科手術では切ることができる長さは5~7センチ。POEMでは25センチの切開も可能で、長く切っても患者の負担が増えるわけではない。

「本来は25センチの切除が必要な場合も、従来法しかない時は最大7センチまでしか切れませんでした」

 すると、前述の「しないよりはまし」といった結果になりかねない。医師は患者の不満足を理解しながらも、それ以上は打つ手がなく、「治療はここまでになります」と言うしかなかった。

 今回の新治療法で、その「壁」を乗り越えられたのだから、その意義は大きい。海外でも高い評価を受けていて、外科の学会誌の中で最高ランクの「アメリカン カレッジ オブ サージャン」に昨年掲載されたという。

「加えて保険点数は従来法より低く、患者さんが負担する治療費は安い。私はPOEMによって『食道アカラシア外科治療の100年の歴史は終わった』と考えています」

 全身麻酔で行うので、4日ほど入院するが、術後2日目から食事もできる。昭和大では約1200例が実施されていて、国内外で4000例超が行われている。「過去に食道アカラシアの手術を受けたが、あまりうまくいかなかった」という患者でも、POEMの実施は可能だ。

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