死亡リスク3割減 急増「前立腺がん」の新たな治療法とは

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんが猛烈な勢いで増えている。国立がん研究センターの予想によると、今年中に前立腺がんを新たに患うと予想されている人は9万人余り。ここ10年で2倍以上の増加だ。

 この病気は尿道を包む前立腺が、がん化する。進行すると、骨に転移することが多い。こうなると治療法は限られるが、今年3月に生存期間の延長が期待できる新たな放射線療法が認められた。どんな治療法なのか?

「世界で初めて、α線と呼ばれる放射線を用いて、骨に転移したがん細胞に対して治療効果が認められた治療法です。静脈注射で『ゾーフィゴ』と呼ばれる放射性医薬品を体内に投与。体の内側から放射線を出して治療します」

 こう言うのはJCHO東京新宿メディカルセンター放射線治療科(東京・新宿)の黒崎弘正部長だ。

 ゾーフィゴにはα線を出す「ラジウム-223」と呼ばれる放射性物質が含まれている。この物質には、骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質がある。注射で体内に運ばれると、代謝が活発となり、がんの骨転移巣に多く運ばれる。そこからα線が放出され、骨に転移したがん細胞の増殖を抑えるという。

「骨転移した前立腺がんの治療に使われる放射性医薬品は、他に『メタストロン』があります。静脈注射で投与して、体の内側から放射線を出すのはゾーフィゴと同じですが、あくまでもこれは痛みを緩和する治療法です。比較的弱い放射線であるβ線で痛みの原因となるがん細胞を殺す。そのことで、鎮痛効果をあげてきたのです」(黒崎部長)

 しかし、ゾーフィゴは破壊力がまったく違う。α線はβ線の7000倍の重量があり、突き抜ける力は紙1枚程度と弱いものの、目的物に衝突したときの放射線量は強烈だ。

「複数の国々で共同実施された臨床試験では、ゾーフィゴを使用した患者さんは、そうでない患者さんに比べて生存期間が4カ月延び、30%の死亡リスクの低下が認められています。これまでは、痛みを取るだけだった患者さんに生存期間延長の希望が出たことは朗報です」(黒崎部長)

 JCHO東京新宿メディカルセンターは、メタストロン治療で都内1位の実績を誇ってきたが、今後は新しい治療法に変わるだろうという。

 中には、“新たな治療法といっても、たったの4カ月しか長生きできないのか”と思う人もいるかもしれない。しかし、これはあくまでも平均的な数字。より長生きする人もいるということだ。

■骨に転移しても諦めない

 治療は簡単だ。4週間ごとに1回の間隔で静脈注射を行うだけ。最大でも6回で済む。気になる副作用は貧血や下痢や嘔吐、食欲減退、骨痛、疲労など軽度なことが多い。

 問題は家族への影響だ。体内から放射線を発するだけに、患者の身近にいる家族に被害はないのだろうか?

「ゾーフィゴ静脈注射から発せられるα線は、患者さんの体内では0.1ミリ未満の範囲にしか影響を及ぼしません。ほとんど影響なしと言っていいでしょう。ただし、ゾーフィゴの静脈注射後1週間程度は、α線を出す放射性物質のラジウム-223が血液や便などに微量に残る可能性があります。そのため、患者さんの便や尿などに触れる可能性がある場合や、これらで汚れた衣類などを触る場合はゴム製の使い捨て手袋を使う必要があります。子供や妊婦さんの接触も最小限にする必要があります」(首都圏の放射線治療医)

 現在、都内でこの治療法を実施しているのはJCHO東京新宿メディカルセンターを含めて4施設のみ。“骨にまで転移したらがんの治療はおしまい”などとあきらめずに、新しい治療法を試してみてはどうだろう。

関連記事