乳房再建に2つの選択肢 人工物or自家組織どちらが安全か

乳がんで闘病中の小林麻央と海老蔵夫婦
乳がんで闘病中の小林麻央と海老蔵夫婦(C)日刊ゲンダイ

 妻や恋人のことを考えると、乳がんは男性にとって「知らなくても済むこと」ではない。今回は「自家組織による乳房再建」について、第一人者に話を聞いた。

 乳がんで乳房を全摘した時、検討されるのが乳房再建だ。自分の組織(自家組織)、あるいは人工物(インプラント)を用いる2つの方法がある。すべて自費だった人工物が2013年に保険適用になったことで、温存にこだわらずに全摘を選ぶ人が増えている。

 では、自家組織と人工物ではどちらにメリットが多いのか。

 横浜市大付属市民総合医療センター形成外科・佐武利彦部長は、自家組織の主な利点を①温かく柔らかいので自然の乳房に近い②人工物で起こりうる感染や破損がない③時間の経過による変化が少ない。人工物は徐々に上に移動して乳房の左右非対称が目立ってくる場合がある④違和感が少ない。人工物では痛みなどを感じる場合がある――を挙げる。

■人工物の場合はメンテナンス必須

 人工物で再建した患者を10年間追跡した海外のデータでは、「術後、再手術を受けた人」が54・6%。そのうち「再建した乳房から人工物を抜去した人」は32・8%と、3人に1人いた。抜去の理由は、破損、大きさや形の変化、左右非対称などだ。

「人工物を体内に入れることで起こる避けようがない結果で、医師の腕とは関係ない部分がある。だから、人工物は入れたら完成で終わりではなく、メンテナンスしていく必要があります」

 自家組織ならメンテナンスは不要。人工物より自家組織の方がいいと、素人目には感じる。しかし、がん拠点病院でも自家組織で乳房再建を積極的に行うところは少なく、人工物がほとんどだ。自家組織の手術は高い技術力を要し、手術にかかる手間も人工物より増えるからだ。

 自家組織の乳房再建法には「皮弁法」と「脂肪移植」がある。

「皮弁法」は血流の保たれた状況で皮膚や脂肪を移植する。かつては筋肉ごと取っていたが、合併症が起こりやすい。そこで筋肉を取らずに残し、皮膚や脂肪に血液を運ぶ細い血管(穿通枝)も含めて皮膚と脂肪だけを採取し、移植する。結果、「温かく柔らかい乳房」が実現する。「穿通枝皮弁」と呼ばれる。

 採取する皮膚や脂肪は下腹部からが一般的だが、佐武部長は患者の希望に合わせて部位を選び、下腹部、背部、太もも、でん部など13カ所から選択している。

「脂肪移植」は、下腹部や大腿部などから吸引した脂肪組織をパスタ状に細かく精製し、細い注射器の針につけて1本ずつ移植する。皮弁法は皮膚や脂肪を採取するのでその箇所に傷がつくが、脂肪移植では目立つ傷ができない。

■自家組織による再建にもリスクがある

 皮弁法か脂肪移植かは、乳がんの手術状況や胸の形などさまざまな要素から適応が変わる。ただ、いずれにしろ、自家組織には人工物にはないリスクがある。

「皮弁法は、血管が詰まり脂肪が壊死する危険があります。すると、せっかく再建した乳房を抜去しなくてはならない。医師の経験数、技術力、医療機関の術後の管理能力が問われます」

 脂肪移植でも、脂肪の壊死が問題になる。患者の胸の形などから、脂肪注入の量、回数をその都度変えなくてはならない。複数回する場合、佐武部長は半年ほどスパンを置くというから、脂肪移植を3回行うとすれば1年半かかる。また、脂肪移植は保険も適用されない。

「自家組織と人工物にはそれぞれのメリット、デメリットがある。乳房再建は全摘後すぐに受けなくても、時間が経ってからでも可能です。だから焦らず、まずはどういう乳房をつくりたいかをイメージし、主治医に伝えるべきです」

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