クスリ服用もデメリット しつこい「夏風邪」の常識と誤解

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 夏風邪をひきやすい季節だが、夏風邪は薬を飲んでも治らない。たとえ病院で処方された薬でも。

「夏風邪には薬が効きません」と言うのは、呼吸器専門医の「池袋大谷クリニック」大谷義夫院長。その理由は、夏風邪の原因になる病原体の8~9割がウイルスだから。

 病原体にはウイルスや細菌がある。風邪で病院に行った時、主に処方されるのは抗生物質だ。しかし、ウイルスはそれ自身に増殖力がなく、気道や鼻腔の粘膜の細胞の力を借りて増殖する。そのため、抗生物質は効かないが、放っておいても最長2週間程度で治まる。

「治す目的なら抗生物質は意味がない。むしろ、免疫力を上げる方が効果が高い」

 夏風邪が厄介なのは、時期的に免疫力が下がる要素が多いから。まず、夜に出歩く機会やイベントも多いので、睡眠時間が短くなりやすい。睡眠時間が短い方が免疫力が低下し、結果的に風邪が治りにくくなることは複数の研究で明らかになっている。

 次に、食生活の乱れが問題。暑いからとさっぱりした麺類中心の偏った食事になれば、代謝が下がる。代謝が下がれば胃腸の働きが悪くなる。

 実は、風邪薬を飲むとデメリットの方が大きいことを示す調査結果もある。

 京都大学が行った解熱鎮痛剤「ロキソニン」に関する研究結果では、ロキソニンを服用した人はすべての症状が消えるまで8.9日間要し、そうでなかった人は8.4日間要した。

 解熱鎮痛剤は多くの風邪薬に含まれている。胃炎や薬剤乱用性頭痛などの副作用があるので、治りが早くならないのであれば、飲まない方がいい。 

■咳喘息、COPDだったケースも

 そして、もうひとつ注意したいのが、「長引く咳」だ。くしゃみや鼻水などは治まったのに咳だけが残り、2週間以上続いている――。この場合、風邪をきっかけに別の疾患を発症している可能性がある。

「夏風邪に限らず、当院には長引く咳の相談の患者さんがたくさんいらっしゃいます。風邪だと思っている人が多いのですが、風邪でそこまでは長引かない。よく見られるのが、咳喘息とCOPDです」

 咳喘息は、気道の粘膜に炎症が起こって敏感になり、ちょっとした刺激にも反応して咳が止まらなくなる疾患。「ちょっとした刺激」とは、ラーメンの湯気、冷たい空気、線香の煙、香水など。いったん出始めると話もできないほどひどくなり止まらない。また、咳は夜間や明け方に出やすい。

「長引く咳の半数以上は咳喘息という印象です。咳喘息の段階では完治も可能ですが、放置すれば3割は気管支喘息に移行し、そうなると完治が難しい状態になります」

 COPDは、気道や肺胞に炎症が起こり、肺胞が破壊される。息苦しさから日常生活がかなり制限され、やがて死に至る。

 患者の大半は喫煙者で、40歳以上の人口の8.6%と推定されているものの、自覚している人は少数。さらに治療に結びついている人となるとごくまれだ。COPDで壊れた肺胞はもとには戻らないが、早期に治療を開始すれば、息苦しさを感じるところまでいくのを食い止められる。

「いずれも専門医でないと診断がつきにくいので、長引く咳があれば一度診断を受けてください」

「残念ながら、呼吸器疾患の専門医は数が少ない。開業医は専門医以外も多く、ウイルスか細菌かを考慮せずに抗生物質を処方してしまう。また、患者さんから『薬を出して欲しい』と言われ、そのまま出しているケースもあります」(大谷院長)

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