天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心房細動からくる脳梗塞も…心臓は“脱水”にめっぽう弱い

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 暑い日が続いています。夏場、心臓で特に注意しなければならないのが「脱水」です。弱っている心臓ほど、体内の水分が不足すると血液を送り出す力が低下します。血液の粘度が上がって流れにくくなるため、心臓=ポンプはそれだけ大きな力が必要になり、負担が増大するのです。

 真夏にゴルフ場で倒れて救急搬送されたり、プロのサッカー選手が夏場の練習中に倒れ、そのまま急性心筋梗塞で亡くなったケースもあります。それほど、心臓には負担がかかるのです。

 高齢化が進む日本では、心房細動にも注意が必要です。脱水で心臓の働きが弱っていることに加え、気温が高くなると、体内の熱を放散するために効率的に血液を循環させようと心拍数が上がります。とりわけ高齢者は心房細動を誘発しやすくなるのです。

 心房細動は不整脈のひとつで、心臓が細かく不規則に収縮を繰り返し、血流が悪くなるため血栓ができやすくなります。血栓が移動して脳の血管で詰まると脳梗塞を引き起こします。脱水状態で血液がドロドロになっていると、さらに血管に詰まりやすくなるので、夏場はリスクが高いといえます。

 自分は健康だと思っている人でも、症状が出ているのに気付いていないだけというケースはたくさんあります。心房細動は、「なんとなく体が重い」とか「疲れやすい」といった軽い症状であることも多く、普段から脈拍を測るなどして注意していないと、なかなかわからないのです。

 夏場にそうした変調を感じていながら、放置して普段通り生活しているうちに、「あれ? なんかロレツが回らないぞ」とか「体の右側が麻痺してきた……」といった事態に見舞われ、心房細動からくる脳梗塞だったというケースもあります。

 心房細動は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある人や、その予備群で発症リスクが高くなります。該当する人は、夏場は脱水を起こさないように注意を払ってください。基本的な対策は、やはり適度に水分を補給することです。ナトリウムやカリウムといった電解質が含まれているスポーツドリンクがよいといわれていますが、糖分や塩分も多いので、65歳以上の高齢者は飲み過ぎに気をつけなければなりません。そうした点から、高齢者が脱水を予防するには、電解質と糖質の配合バランスが考慮されている経口補水液を飲むのが望ましいといえます。

 また、アルコールも控えめにしてください。夏場はビールがおいしい季節ですが、アルコールは利尿作用があり、脱水を促します。飲み過ぎてそのまま寝てしまい、夜間に脱水状態に見舞われるケースは少なくありません。宴席でもビールは最初の1杯くらいにしておいて、あとはお茶とお酒を交互に飲むようにするなど、しっかり対策しましょう。

 日焼けもなるべく避けた方がいいといえます。炎天下で活動して日焼けしたあと、「どうも疲れやすいな」と感じたら、日焼けが治まって安定するまでの3~4日間は、無理をするのは禁物です。日焼けはいわばやけどですから、日焼けした部分の水分調節ができなくなってしまって、脱水を促します。日焼けしたあと、「どうも動悸がするな」とか「疲れやすいな」などと感じたら、心房細動が発症している状態かもしれません。医療機関で検査してみたら、心臓のトラブルが発覚する可能性もあります。

 ちなみに「熱中症」というのは、脱水だけではなく体の体温調整が狂ってしまった状態なので、点滴で補液して脱水状態を改善するだけでなく、循環障害や神経障害に対する治療が必要になります。

 いずれにせよ、夏場に少しでも変調や違和感を覚えたら、医療機関で診てもらうことをおすすめします。そのまま放置して無理を重ねるのがいちばん危険です。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。