数字が語る医療の真実

終末期の呼吸困難患者にモルヒネは有効なのか

 前回、「終末期の患者さんの呼吸困難に酸素の効果はなさそうだ」という研究結果を紹介しました。では、終末期の患者さんに効果のある治療はないのでしょうか。

 そこで今回は、呼吸困難に対する「モルヒネの効果」を検討した研究結果を紹介しましょう。この研究は、複数のランダム化比較試験を統合したメタ分析という方法を用いています。たまたま良い結果が出たかもしれない一つの研究結果ではなく、多くの研究を統合して検討していますから、より信頼性が高い方法といっていいかもしれません。ただ、一つ一つの研究の質が低ければ、全体としての結果も怪しくなり、メタ分析の結果であれば大丈夫というものではありません。

 この論文では18の研究を合わせて、終末期の呼吸困難のある患者に対するモルヒネの効果を検討しています。このうち7つの研究では呼吸困難症状の改善の度合いで効果を検討していますが、モルヒネ投与したグループと投与しないグループでは、改善の度合いはほとんど変わらないという結果でした。

 しかし、投与後の呼吸困難のスコアの点数そのものを比較した11の研究の統合では、モルヒネグループのほうが0.3点ほど呼吸困難の症状が少ないというものでした。ただ、この0.3点というのは呼吸困難を10点満点で表した時の差ですから、極めて小さい差に過ぎません。実臨床では、1点以上の差がなければ症状が良くなったとは実感しにくいと思われます。

 さらに、この分析に使われた一つ一つの論文の質は低く、さらなる研究が必要だと述べられています。大きな効果を期待できないということは明らかなように思われます。呼吸困難の対処は、酸素やモルヒネではなかなか難しいのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。