身近な薬の落とし穴

下痢止め薬が毒素排出のジャマに 腸の不調が長引くことも

 なにかとストレスが多い時代、不安や緊張から下痢になる方も多くいらっしゃいます。市販薬の下痢止め薬の中には「ロートエキス」という成分が含まれているものがあり、「ストッパ下痢止めEX」や「ビオフェルミン下痢止め」がそれに当たります。

 この成分は腸の活発な動きを抑えて下痢を止める働きがあります。会議や商談の前など、どうしても下痢を止めたい時に活躍する薬です。しかし、薬を使うことでかえって病気を悪化させることがあるので注意してください。

 下痢は、腸の動きが活発になりすぎたり、腸内の水分や分泌液が過剰になることによって起こります。不安や緊張があると自律神経のコントロールがうまくいかなくなり、腸の動きが活発になってしまうことで下痢を起こすのです。

 また、食あたりなど、病原性の細菌が出す毒素やウイルスによっても下痢が起こります。細菌が出す毒素は、腸内に障害や炎症を起こします。腸は、その毒素を体外に押し出すために必死で活動し、下痢や吐き気が起こります。

 この時、腸の活発な動きを抑えて下痢を止めるロートエキスの成分が含まれた薬を使うと、腸の動きが抑えられ、毒素が体内にたまってしまいます。つまり、かえって下痢や腸内の炎症が長引く危険があるのです。

 よく、急な下痢にビックリして薬を買いに来られる患者さんがいらっしゃいます。話を聞いてみて、「熱や血便はなく、吐き気を伴う水のような下痢」の場合、基本的に薬を販売することはありません。無理に下痢を止めると、毒素の排出をジャマしてしまうからです。

 そんなときは、水分をしっかり取りながら、2~3日様子を見るようにアドバイスします。ほとんどの場合、2~3日もすれば下痢が治まり、体調が良くなります。ただし、高熱や血便がある場合は抗菌薬を使用した方がいいケースもあるため、病院を受診してください。

 また、どんな下痢の場合でも、脱水には注意しましょう。スポーツドリンクや経口補水液による水分摂取が大切です。

中尾隆明

中尾隆明

1985年、愛媛県生まれ。愛媛県立南宇和高等学校を経て岡山大学薬学部を卒業。2008年からこやま薬局(岡山県)で管理薬剤師を務め、現在は企画運営部主任として各店舗のマネジメントを行っている。8月に著書「看護の現場ですぐに役立つ くすりの基本」(秀和システム)を発売。