死を招く病気は秋に発症する

男性ピークは9月と12月 「がん死」は秋から増える

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 昔から、庶民のあいだでは「秋はがんで亡くなる人が増える」と言われてきました。年配の医師のなかにも、そういうことをおっしゃる先生が結構います。一方、医学的には「がん死に季節性はない」とされています。本当はどうなのでしょうか。

 実は胃がんに関しては、秋に死亡が増えることが知られています。たとえば、1970年代に発表された論文には「胃がん(死)は秋(9、10月)にごく低い山を示す」と書かれています。またその理由として「日本の夏は高温多湿でがん細胞の分裂が促進されやすい」ことと、「夏は暑いなりにもちこたえた体力も秋の気候の急変で落ち込む」ことが挙げられています。

 高温多湿とがん細胞の分裂が本当に関係しているかは分かりませんが、後の理由は直感的に納得できます。がんといえば胃がんというほど、それで亡くなる人が多かった時代の話ですから、庶民感覚としても受け入れやすかったに違いありません。

 最新の死亡統計でも、胃がんで小さな季節変動があることが確認できます。ただしピークは11月にシフトしています。地球温暖化が進んでいるためかもしれません。肺がんなど、他のがんでも、同様の小さな季節変動が認められました。

 そこでがん全体で1日当たりの死亡数を調べたところ、男性では9月と12月に小さなピークがあります。女性でも9月からじわじわと死亡数が増え、11月がピークになっています。また男女とも5、6月が底になっています。とはいえ変動幅はわずかで、予防的・医学的に意味があるような差ではなさそうです。

 一方、欧米ではがん死の季節変動はないとされています。しかし秋になると、皮膚がんの患者が急増することが知られています。といってもたったひと夏の紫外線で、ただちに皮膚がんができるわけではありません。しかし白人は有色人種と比べて皮膚がんになりやすい。そのため夏に浴びた紫外線が心配になって、秋になると皮膚科を受診する人が一気に増えるのです。すると当然、皮膚がんの発見数も増えるというわけです。このようなことは、皮膚がんの少ない日本では見られません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。