天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

尿酸値は心血管疾患の発症にも関わる

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 夏は「尿酸値」が上がりやすい季節です。発汗などによって体内が脱水気味になり、血中濃度が上がるためです。冷えたビールがおいしいこともあって、尿酸値を気にされている方も多いのではないでしょうか。

 尿酸というのは体内でプリン体が分解されてできた老廃物で、ビタミンCを上回る強い抗酸化作用があり、酸化ストレスから組織を守る有益な作用を持つといわれています。しかし、血中濃度が「7㎎/dl」を超えると結晶になり、その結晶が関節などにたまって激痛を引き起こします。これが「痛風」です。

 日本痛風・核酸代謝学会では、尿酸値が「7」を超えている場合は「高尿酸血症」としています。しかし、そのすべてが痛風発作を起こすわけではありません。発作は起こっていないものの、尿酸値が高い人もたくさんいます。日本では、痛風患者が約100万人、無症候性高尿酸血症は500万人いると推計されています。

 私も18年前、初めて高い尿酸値が原因の尿管結石で激痛発作を経験し、ずっと尿酸値を下げる薬を飲んでいます。血液検査で尿酸値が高いことは分かっていたのですが、放置していたツケがきて、体外衝撃波による入院治療が必要でした。それ以来、日頃から尿酸値の定期検査を受けています。

■高血圧や高脂血症を合併しているケースが多い

 また、高い尿酸値は結石形成だけでなく、動脈の石灰化にも関係していることが明らかになっているため、2年前からは尿酸値をきちんとコントロールするためにお酒もやめました。そのおかげもあり、体調は良好です。

 つまり、中高年の高尿酸血症で注意しなければならないのは、痛風や結石だけではないのです。心血管疾患の発症と大きく関係しているという報告が欧米に数多くあるうえ、高尿酸血症の人の死亡原因の第1位は、心筋梗塞などの心血管疾患というデータもあります。

 もともと尿酸値が高い人は、高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病などを合併しているケースが多く、それが心血管疾患が増える大きな要因だと考えられています。いずれも、動脈硬化を促進させる大きなリスク因子で、動脈硬化は心筋梗塞、狭心症、弁膜症、大動脈瘤などの心臓病を引き起こす要因になります。

 高血圧学会では、「日本人は尿酸値が『1』上昇するごとに、男性で18%、女性で25%が高血圧を合併しやすい」という発表もあり、男性は「7.5以上」、女性では「6.3以上」の場合、高血圧を合併する患者の心血管疾患の発症が増えるという報告もあります。やはり、尿酸値が高いまま放置しておくのはリスクも高いと考えていいでしょう。

 また、合併だけでなく、高尿酸血症は心血管疾患の独立した危険因子であるという報告もあります。はっきりしたメカニズムはまだ解明されていませんが、尿酸が基準値を超える状態が続くと、血管の細胞が尿酸を取り込んで血管の壁が厚くなり、血液の通り道が塞がれて心筋梗塞や狭心症のリスクが高まるのではと考えられているのです。

 こうした数々の報告から、尿酸値が一定以上高ければ、無症状であっても積極的に尿酸値を下げる治療を行うべきだという流れも出てきています。現在は、男性も女性も尿酸値が「7」を超えたらリスクが高くなるとされていますが、女性はもともと男性より尿酸値が「2」ぐらい低いため、「5」を超えたら注意が必要です。女性の場合、男性に比べて尿酸値が高いと心血管疾患になりやすいという研究もあるので、気をつけましょう。

 尿酸値も心血管疾患も、リスクを下げるには生活習慣を改善することが重要ですが、それが難しい人は、早めに尿酸を下げる治療を検討したほうがいいかもしれません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。