Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【林家木久扇さんのケース】咽頭がん2大リスクはたばこと酒

林家木久翁さん
林家木久翁さん(C)日刊ゲンダイ

 お元気そうで何よりです。落語家の林家木久扇さん(78)は、2年前に発見された喉頭がんの経過が順調のようで、人気番組「笑点」で次のように話していました。

「担当の先生が『もう毎月検診に来なくていい。3カ月にいっぺんでいいよ』と言ってくれました」と語り、「がんサバイバーの木久扇です」と両手を広げてガッツポーズしながら挨拶したのです。

 喉頭はいわゆるのどぼとけで、その中にあるのが声帯。そこにがんができて、摘出手術を受けると、声を失う恐れもゼロではありません。落語家にとって、声は命の次に大切なもの。それを失いそうな崖っぷちから生還したのですから、喜ぶのも当然でしょう。

■男性は女性の10倍

 昨年、喉頭がんにかかった人は推計4700人で、13万人を超える大腸や肺、胃の3大がんと比べて少ない。がんの中では珍しいがんではあるものの、その病気による社会的な影響が無視できないため、注意が必要なのです。

 実は、喉頭がんになるリスクが高い人はハッキリしています。1つは、「男性」です。昨年発症した人のうち、4300人が男性。女性の10倍と圧倒的です。

 もう1つが、「たばこを吸う人」。たばことがんの関係でいうと、肺がんをイメージされる人が多いでしょう。しかし、肺がんより喉頭がんの方こそ、たばこの影響が強いのです。

 男性の場合、たばこを吸う人が喉頭がんになるリスクは、吸わない人に比べて32倍。肺がんは4倍ですから、その差は歴然。肺がんになる人は70%がスモーカーですが、喉頭がんは90%超。ほとんどがスモーカーなのです。

 3つ目が飲酒。日本酒換算で毎日1.5合以上飲む人が喉頭がんになるリスクは、飲まない人に比べて8倍。さらに喫煙が重なると、喉頭がん発症リスクは30倍にハネ上がるとされます。

 喉頭がんの発症のピークは60代前半。毎日1~2合の日本酒を飲み、たばこを1箱以上吸い続けていると、定年前後で喉頭がんになりかねないということです。

■声のかすれを放置してはいけない

 日本酒1合は、ビールなら中瓶1本、焼酎なら0.6合、ウイスキーならダブル1杯、ワインなら4分の1本、缶チューハイなら1.5缶。こうしてみるとドキッとされる人もいるでしょう。毎日毎日、アルコールやたばこの刺激が少しずつ蓄積され、30~40年で喉頭がんを発症するのです。

 喉頭がんのリスクを少しでも減らしたければ、酒とたばこをなるべく控える。毎日晩酌する人は量を減らしたり、休肝日を設けたり。たばこを吸う人は頑張って禁煙するか、せめて本数を少しずつ減らしていくのが無難です。

 木久扇さんは声がかすれたことに違和感を覚えて受診。喉頭がんのステージ2と診断されたものの、放射線治療で無事、仕事に復帰しました。皆さんも声のかすれを自覚したら放置せず、すぐ耳鼻咽喉科を受診することです。そうやって早期発見、早期治療を心掛ければ声を失わずに済みますから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。