数字が語る医療の真実

終末期に呼吸が困難な患者には風を顔に送ることが有効

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 終末期の呼吸困難には、酸素やモルヒネの効果はあまりないか、あっても小さなものであることを研究結果は示しています。そんな希望のない状況ばかりお伝えしてきましたが、意外な結果を示した治療があります。

 この研究は、がんを含む呼吸困難のある患者を対象に、手持ちの扇風機で、「顔→足の順で5分ずつ風を当てるグループ」と、「足→顔の順で5分ずつ風を当てるグループ」で、「VAS」(視覚的評価スケール、0を「呼吸困難なし」、100を「経験した最大の呼吸困難」とした場合、10センチの直線上でどこに位置するかを患者自身が示す)により、呼吸困難の程度が改善したものの割合を比べています。

 最初に顔に風を当てたグループでは、直後に呼吸困難が10センチのスケールで1センチ以上改善したものの割合が29%、10分後には40%であったのに対し、最初に足に風を当てたグループでは、直後で2%、5分後でも3%しか改善しなかったという結果でした。

 ただ、改善の度合いの平均値で見ると、顔に風を当てたグループでも直後で7ミリ、10分後で10ミリ改善しているにすぎず、酸素やモルヒネの効果と似たような小さなものかもしれません。しかし、顔に風を当てるのは、酸素やモルヒネに比べ副作用の危険が小さく、自宅の扇風機を使えばコストもかかりません。とりあえず試みていい治療法ともいえます。実際、患者さんにやってみると、多くの患者さんは「ああ気持ちがいい」と言ったりします。特に今のような夏の時季では意外に効果が大きいかもしれません。

 でも、「扇風機に当たると気持ちいいよね」……みたいな当たり前のことをわざわざ研究する必要があるのかといわれると、確かにそうだということかもしれませんね。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。