死を招く病気は秋に発症する

HbA1cが下がる秋は「1型」糖尿病の発症が増え始める

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病が気になる人にとって、いいシーズンの始まりです。というのも、秋に入ると「HbA1c」の数値が低くなるからです。とりわけ9月から10月が、一年を通してもっとも低い値になることが多くの研究から分かっています。

 数値は「糖化ヘモグロビン」と呼ばれる物質の量を測定します。赤血球中のヘモグロビン分子が血液中のブドウ糖(血糖)と結合してできたものが、糖化ヘモグロビンです。血糖値が高い人ほどより多くできることが分かっています。

 HbA1cは、全ヘモグロビン分子の中で、糖化ヘモグロビンに変化したものの割合を示した値です。

 たとえば、HbA1c値が6.0なら、全ヘモグロビンのうち6%が糖化ヘモグロビンに変化しているという意味です。糖化ヘモグロビンは1~2カ月で半分以上が分解されて入れ替わっていくため、HbA1c値は直近1~2カ月間の平均血糖値を反映しているというわけです。

 ちなみに、HbA1cの基準値は6.2です。以前は5.8でしたが、国際基準と比べて低すぎたため、2012年度からこの値に引き上げられました。

 秋に入ると、HbA1c値は平均して0.2~0.3ほど下がります。逆に春はHbA1c値が上がることが知られています。ですから、春の検診でHbA1cが境界値前後にあった人でも、秋には正常値に収まっている可能性が高いというわけです。気になる人は、この時期に病院で検査を受け直してみるといいでしょう。

 ただしこれは2型糖尿病、つまり肥満などが原因の糖尿病に限った話です。遺伝や自己免疫疾患などが原因で膵臓のインスリン生産機能が損なわれると、1型糖尿病になります。この病気になると、生涯インスリンを打ち続けなければなりません。子供が発症しやすい病気ですが、なぜか秋に入ると増え始めるのです。

 これは、ドイツで行われた12年間にも及ぶ大規模な疫学調査によって分かったことです。春から夏にかけて発症率が低く、秋から冬が高いことが明らかになりました。しかも、発症率が最低の7月と最高の1月とを比べると、実に1.5倍の違いがあるのです。

 1型糖尿病になぜそのような季節変動があるのか、理由はまだ分かっていません。季節性のウイルス感染などが原因ではないかとも考えられています。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。