これで痛みを取り除く

虫歯はエナメル質にとどまっているうちに治療すべし

 鋭い、刺すような痛みに苦しめられる虫歯(齲蝕=うしょく)。しかし、いきなり激しい痛みが表れるわけではない。自分で発症に気づいていながら歯医者に行かず、放置した末での症状だ。日本歯科大学生命歯学部・歯科補綴(ほてつ)学の五味治徳教授が言う。

「虫歯は口腔細菌(虫歯菌)が産生する酸によって歯が溶ける病気です。しかし、虫歯が歯の表面の硬いエナメル質にとどまっている間は無痛です。虫歯がエナメル質の下にある象牙質に達すると痛みが出始めるのです」

 最初は、冷たいものや甘いもの、酸っぱいものなどを食べたときに“歯がしみる”一過性の痛みが表れる。歯の神経がある歯髄は象牙質の下に存在するが、象牙質には象牙細管と呼ばれる歯髄とつながっている部分がある。そこから神経に刺激が加わるのだ。

「食べ物などで歯がしみる程度であれば、歯髄内に血液が充満する『歯髄充血』という状態なので、何もしなくても歯が痛い自発痛はありません。それが象牙細管から細菌が侵入したり、虫歯が歯髄まで及んだりして歯髄が細菌感染を起こすと、自発痛が表れる『歯髄炎』に進行するのです」

 歯髄炎には、歯髄の一部に炎症が起こる「一部性」と、歯髄の全体的に炎症が及ぶ「全部性」があり、それによって自発痛の頻度や強さが異なってくるという。

 歯痛は治療で取り除けるが、虫歯が歯髄に到達しているかどうかで治療内容が違う。虫歯が象牙質でとどまっていれば、虫歯の部分を削ってプラスチック性の詰め物でふたをする「レジン修復」を行う。削る部分は、歯に「齲蝕検知液」を垂らすと虫歯の部分が赤く染まるので、それを目安に削るという。

「虫歯が歯髄と交通してしまっている場合には、神経を取る『根管治療』を行います。神経に沿って周囲の歯も削りながら神経を取ります。そして、神経のあった穴をゴム質材料(ガッタパーチャー)でふさぎます」

 ただし、一度、細菌感染してしまった根管(神経や血管が通る管)を完全に無菌化することは非常に困難。一般的に根管治療の成功率は60~80%程度とされている。

 治療後に細菌が歯の根の先端部分まで達し、根先が化膿してしまう病態を「根尖(こんせん)性歯周炎」という。この場合も、自発痛や噛むと痛い咬合(こうごう)痛などの歯痛の原因になるという。