台風後に風邪症状が出たら「人獣共通感染症」の疑いあり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 台風10号が各地で甚大な被害をもたらしている。東京や千葉、埼玉などの都市部では側溝や下水道の水が道路にあふれ、上陸した東北地方では川が氾濫、家屋の浸水も相次いだ。北海道では今月4つ目の台風上陸・接近で土砂崩れなどの被害が出ている。そこで気になるのが水害後の感染症だ。どんな病気に気をつけなければならないのか? 「松尾内科クリニック」(東京・桜新町)の松尾孝俊院長に聞いた。

 昨年9月は関東・東北豪雨で鬼怒川堤防が決壊、茨城県常総市を中心に9000以上の家屋が水につかった。このとき国立感染症研究所が注意を呼び掛けたのが、さまざまなウイルスによる呼吸器の病気、「急性胃腸炎」や「急性下痢」、肺炎を起こす可能性がある「レジオネラ症」、人獣共通感染症である「レプトスピラ症」、それに傷口から細菌が侵入して致死性のある「破傷風」だった。

「この中で気になるのが、人獣共通感染症であるレプトスピラ症です。ネズミなどの野生動物や牛、馬、豚などの家畜、猫や犬などのペットの腎臓の中にすむ細菌が尿として排泄され、それに人が触れたり、飲み込んだりすることで発症する病気です」

■妊婦は流産のリスクが高く

 あまり聞きなれない病名だが、4年前の九州北部豪雨の被災地でも最も警戒すべき感染症として国立感染症研究所が挙げた病気だ。

 感染すると発熱や頭痛、激しい筋肉痛に襲われる。数日後に目がうさぎの目のように充血し、嘔吐する。その後、いったん熱は治まるが、再び上昇。まれに頭痛を伴う髄膜炎、意識の混濁や昏睡を起こすケースも。肝炎や腎炎、肺炎によって、黄疸や腎不全、血の混じった咳が出ることもある。妊婦がかかると流産のリスクがある。

 海外では東南アジアなどを中心に洪水の後に大発生した例がいくつも報告されているが、日本でも台風や大雨後にレプトスピラ症が広まった地域がある。2004年の愛媛県、06年の宮崎県、11年の三重県、高知県などだ。いずれも、野生動物や家畜、ペットなどのふんが混じった汚水が河川に流れ込み、それに触れた人々が感染したと考えられている。

 宮崎県の場合、確認された患者数は8人だったが、病気の80%は軽い症状で治るため、病院に行かない人も多い。実際の患者数はさらに多かったとみられている。

「この病気は1~2週間の潜伏期間があり、最初は風邪に似た症状なので軽く考えがちです。しかも水害の直後だけに表れるわけではありません。病気を引き起こすレプトスピラは、淡水や湿った土壌の中に数カ月は生息できるといわれています。実際、高知県の例では大雨が降った10日後の作業で4人中3人が高熱を出して入院しています」

 とはいえ、「レプトスピラ症は動物がたくさんいて、農作業や土木作業の多い田舎の病気。都会の人には無縁だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、それは間違いだ。1999年の沖縄・八重山地区では、ウオーターレジャー関係者が集団感染した。

「最近は、地球温暖化の影響か、これまでにない集中豪雨が相次ぎ、都市部でも下水があふれだすなど、レプトスピラ症感染のリスクは高まっています。時間が経った後でも大雨で浸水した河川や水田にはむやみに入らない、下水があふれた水には触れない、水害の後始末で水につかったり、泥に触れたりする場合はゴム長靴や手袋を使用する。用心することです」

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