従来薬と異なる作用機序 新薬登場でてんかん治療が変わる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 発作による悲惨な事故の報道などから、偏見や誤解が多い「てんかん」。新薬が登場し、新たな治療の展開が期待されている。

 以下のうち、てんかんで正しい情報はどれか。わかるだろうか?

(1)発作で死んでしまうことがある
(2)こころの病気
(3)遺伝する
(4)発作中に舌を噛むので口の中にハンカチなどを入れるとよい
(5)発作が起きたら救急車を呼ぶ

 特に(3)~(5)は「イエス」と思っている人が多いが、実はすべて間違った情報だ。

「日本てんかん学会」理事長で、東京女子医大名誉教授の大澤眞木子医師は、「どの年齢でも起こるてんかんは、発作で死ぬことはまずなく、こころの病気でもありません。遺伝が原因のケースはごくわずかで、約5割は原因不明。発作中は口の中にものを入れる方が危険であり、ほとんどの発作は救急車を必要としません」と指摘する。

 7月に製造販売承認を取得した新薬(一般名ラコサミド)は、従来薬と違う作用機序を持つ。ほかの抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者に対し、従来薬との併用療法によって脳の一部が興奮して起こす部分発作を抑制する。

■適切な診断・治療を受けられていない

 てんかんの治療は、薬の効き目が悪ければ追加や変更が検討される。しかし、これまでの抗てんかん薬は、治療開始後、最初の薬で発作が消失した率は47%、2番目の薬では13%、3番目の薬、または抗てんかん薬の多剤併用では4%。一方、薬で発作が消失しない人が37%と、4割弱いた。

「彼らにとって新薬は期待ができる。しかし、4割弱に十分な効果が見られないのは、薬の作用機序が合っていなかったからだけではありません。適切な診断、治療が受けられていなかった人もいると考えられます」

 大澤医師によれば、てんかん発作には、本来の発作に加えて「偽発作」もある。また、「発作=てんかん」ではなく、てんかんにはさまざまなタイプがあり、その中にも脳内の異常な波で2次的に起こっている発作もある。

 だから、さまざまな検査が必要なわけだが、そもそも、てんかんとは気づきにくい発作もある。「単純部分発作」と呼ばれるもので、まずは感覚器の異常が表れる。

「光が見える、目がかすむ、音・声・メロディーが聞こえる、不快なにおいがする、体の一部がちくちくする、しびれなどがあります」

 次に、自律神経の症状だ。動悸、発汗、皮膚の紅潮もしくは顔面蒼白、発熱、寒け、頭痛、吐き気などが見られる。そして、運動機能の症状が出る。手足や顔がつっぱる、ねじれる、腕や足の一部がけいれんするなど。いずれも患者は意識があり、発作中の症状を覚えている。これらを念頭に、正しい診断に基づいて発作を抑えなくてはならない。

「診断後は、薬物治療に加え、発作の誘発因子を排除することも大切です」

 発作が起こりやすい条件は、「ほっとした時」「ぼんやりしている時」。入眠直後、寝起き直後、睡眠中、体温上昇時、深呼吸をした時などが該当する。緊張しているシーンでは起こりにくい。

 また、誘発因子は人それぞれで、急激な体温の上昇、発熱、テレビ画面や点滅する光、木漏れ日といった光刺激、月経前、さらには疲労やストレス、睡眠不足、薬の飲み忘れなどが絡み合って発作を起こしやすくする。

 新薬登場の意味は大きい。加えて、対策が十分に取れているかのチェックも不可欠なのだ。

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