当事者たちが明かす「医療のウラ側」

大腸がんには「左右差」がある

都内の40代勤務医

 同じ大腸がんでも「発症率」や「生存期間」ばかりでなく、「薬の効き方」にも差があるのをご存じですか?

 世界中のがん研究者や臨床医が集まる「ASCO」(米国臨床腫瘍学会)でも、今年取り上げられたテーマです。ご興味のある方もおられるでしょう。

 大腸がんは大腸の大部分を占める結腸にできる結腸がんと、直腸にできる直腸がんに分けられます。

 発生場所としては直腸にできることが多く、続いて「S状結腸」「上行結腸」「横行結腸」となります。男女ともに60歳代に多いとされています。

 さて、大腸の右側には「盲腸」「上行結腸」「横行結腸」があり、左側には「下行結腸」「S状結腸」「直腸」があります。

 がんが右側に出たときは自覚症状が出にくく、しこりや慢性的な出血による貧血症状から診断されることが多い。一方、左側だと下血、血便、便秘、下痢、便が細くなるなどの症状から診断されることが多いのです。

 大腸がんの発症率で言うと、圧倒的に左側の方が多い。「大腸がん検診ガイドライン・ガイドブック」によると、右側26%、左側74%です。生存期間では右側が悪い。右側は予後不良因子とされる変異が多いうえ、左側に比べて便が固まっておらず、がんが発見しづらいからです。

 では、薬の効き方はどうでしょう? 今年の「ASCO」での報告によると、大腸がん患者1137例を対象にした、「抗EGFR抗体セツキシマブ」と「抗VGEF抗体ベバシズマブ」の効果の違いを調べた研究を再検討したところ、どちらの薬でも左側の大腸がんの生存期間中央値が高かったそうです。ただし、左右差は抗VGEF抗体ベバシズマブの方が小さかったと報告されています(薬別の生存期間中央値はセツキシマブが左側36.0カ月、右側16.7カ月/ベバシズマブ左側31.4カ月、右側24.2カ月)。

 今後は、患者さんの状態と大腸がんが左右どちらにできたかによって、薬の選択が変わってくる可能性があるということです。

 がんの正体がどんどん分かってきて、治療法も確実に進歩しているのは心強い限りです。