天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

ベトナムではかつての日本で見られた疾患が多い

順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 激減したリウマチ性の心臓弁膜症に取って代わり、近年の日本に増えているのが、生活習慣病が原因の心臓弁膜症です。食生活の欧米化や高齢化が進んだことにより、高血圧や高血糖、動脈硬化を抱える人が多くなり、弁が石灰化したり硬化するケースが増えています。これは、昔の日本ではあまり見られなかった病気です。

 ベトナムでも、富裕層は高齢化や生活習慣病による動脈硬化が原因になる弁膜症や虚血性心疾患が多く見られます。庶民に比べて衛生面や食生活が良い富裕層は長生きする人が増え、その結果、庶民とは違った形の心臓疾患も増えているというわけです。薬の種類も少なく、病院の設備も遅れているため、高度な医療が受けられない庶民は、そうした心臓疾患が悪化する前に亡くなってしまっているケースも少なくないでしょう。

 つまり、経済発展を遂げて裕福になった今の日本で社会全体に広がってきた高齢化や生活習慣病が原因の心臓疾患が、ベトナムではまだ一部にとどまっているということになります。将来的にベトナムが経済発展して、社会全体の生活環境が向上して高齢化が進めば、日本と同じような道をたどるかもしれません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。