夏バテ胃腸は秋口に立て直せ

感染症が治っても不調を引きずる

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 これまでお話ししてきたように、夏は冷房の影響、冷たい物の取り過ぎ、夏特有のストレスなどが原因で、自律神経のバランスを崩しやすくなります。これが「夏バテ胃腸」を招きます。

 そうなると免疫力も低下するため、さまざまな感染症にかかりやすくなります。しかも、日本特有の高温多湿な夏は、腸管の感染症、特に「細菌性腸炎」が起こりやすい環境といえます。

 細菌性腸炎は、O-157、サルモネラ、カンピロバクター、ブドウ球菌といった細菌に感染することで発症し、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状が表れます。

 また、免疫力の低下により、ノロウイルスやロタウイルスなどの「ウイルス性腸炎」にもかかりやすくなってしまいます。こちらも、下痢、嘔吐、発熱といった症状が表れます。

 これらの感染症は、適切な治療を受ければ通常1週間程度で細菌もウイルスも胃腸から消えるため、完治すると考えられてきました。しかし、実際にはそうではないことも分かってきています。

 最近の研究によると、これらの細菌やウイルスなどの病原体に感染して程度が重い胃腸炎を起こした人は、病原体がいなくなった後も、長期間にわたって胃腸のつらい症状に苦しむケースがあることが分かりました。ひどい場合は、3カ月間も症状に苦しむ人もいます。

 これは、細菌やウイルス感染で起こる胃腸炎の炎症によって、「胃のペースメーカー細胞」が壊れて数が減ってしまうことが原因です。胃の筋肉の層には「カハール細胞」という細胞があり、胃の運動やリズムを調節するペースメーカーの役割を果たしています。ひどい細菌性やウイルス性の腸炎によって、カハール細胞がダメージを受けて数が減ってしまうと、胃の動きが悪化してしまうのです。

 この新しい病気の概念は、「感染後機能性ディスペプシア」と呼ばれています。症状が重い場合は、食事がとれなくなって体重が激減し、入院が必要になるケースもあるので、甘く見てはいけません。

 最近は、重症の感染後機能性ディスペプシアに対し、幹細胞移植を行うと改善することがマウスの実験で証明されました。今後、新しい治療法の開発が期待されます。

 夏場にお腹にくるような風邪をひき、胃腸炎も治ったはずなのに、今もずっと胃腸の調子がすぐれない人は、感染後機能性ディスペプシアかもしれません。消化器の専門医に感染後機能性ディスペプシアの可能性も考慮してもらえるよう相談して、適切な対処をしてもらってください。

江田証

江田証

1971年、栃木県生まれ。自治医科大学大学院医学研究科卒。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器内視鏡学会専門医。日本ヘリコバクター学会認定ピロリ菌感染認定医。ピロリ菌感染胃粘膜において、胃がん発生に重要な役割を果たしているCDX2遺伝子が発現していることを世界で初めて米国消化器病学会で発表した。著書多数。