Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

小林麻央さんのブログにも? 乳がん検診「最大の問題点」

小林麻央さんはブログを再開
小林麻央さんはブログを再開(C)日刊ゲンダイ

 気になった人もいるでしょう。夫の市川海老蔵さん(38)によって乳がんであることが報告されて以来、治療に専念していた小林麻央さん(34)が今月からブログを再開。「解放」と題された4日の投稿に、こんな一節があります。

「あのとき、もっと自分の身体を大切にすればよかった。あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった。あのとき、信じなければよかった」

 それらの表現から察するに、最初の病院での診断を信じたために、自分の体によからぬことが生じたことを受け、その診断をうのみにせず、セカンドオピニオンを取っておけばよかったといった後悔が読み取れます。そのよからぬこととは、乳がんの診断の遅れではないでしょうか。

 麻央さんの表現には、乳がん検診における重大な問題点が隠されている可能性があります。40歳以上の女性に、2年に1回勧められているマンモグラフィー検診のことです。ここから先は、麻央さんのことからは離れ、マンモ検診の問題点についてお話しします。

 マンモ検診を受けた人には、「異常所見なし」「要精密検査」のいずれかが書面で通知されるケースがほとんどです。「要精密検査」は、乳がんかどうかはともかく異常が認められ、より詳しい検査が必要という意味で、他意はありません。

 しかし、「異常所見なし」には、「読影の結果として異常がなかった」というケースと、「異常があるかどうか読影できなかった(読影不能)」ケースがあるのです。

 マンモはX線で撮影する画像装置で、撮影された画像にがんがあると、白く写ります。脂肪が多い「脂肪性乳房」は、乳房が黒く写るため、色の違いからがんを見つけやすい。ところが、乳腺が密集しているタイプの「高濃度乳腺(デンスブレスト)」の乳房は、がんと同じように白く写るため、がんを見つけにくいのです。

 脂肪と乳腺の散らばりから、「脂肪性」「乳腺散在」「不均一高濃度乳腺」「高濃度乳腺」の4つに分類。前の2つはマンモでがんを見つけやすく、後の2つはがんを見つけられなかったり、読影不能になったりする恐れがあるのです。

 困ったことに、日本人女性は7割が高濃度乳腺といわれています。年代別では、40代の89%、50代の57%が「不均一高濃度乳腺」「高濃度乳腺」とする報告もあり、若い人ほど高濃度の割合が高い傾向もうかがえるのです。

 麻央さんが高濃度乳腺で、乳がんと診断される過程でマンモを受けたとすれば……。不利益を被った可能性は少なくないでしょう。

 では、マンモで「異常なし」とされた人は、どうすればいいか。受診した医療機関に高濃度乳腺かどうか問い合わせてみる。もし高濃度なら要注意なので、改めて超音波検査を加えて調べてみるのもよいでしょう。このダブルチェックで、マンモ単独の場合より1・5倍、早期乳がんを見つけやすくなるのです。

 米国では、マンモ検診の危うさが社会問題になり、受診者が高濃度乳腺の場合、告知することを義務化する州が増えつつあります。麻央さんのブログは、日本でも米国のようなうねりを起こすかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。