数字が語る医療の真実

終末期の点滴は有害無益か

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 末期のがん患者は徐々に食事がとれなくなっていきます。そんなとき「点滴」は真っ先に考える治療法でしょう。

 実際の末期がん患者に対する診療の現場でも、患者さんの家族が「点滴をしてもらえませんか」と言うのは、最もよくある提案の一つです。「モルヒネやステロイドを使ってください」と患者側から要求されることが少ないのとは反対です。一般的にはいちばん頼りになる治療と思われているのかもしれません。

 この末期がん患者への点滴の効果について、余命3カ月以内と予想されるがん患者226人を対象に、ランダム化比較試験で検討した研究があります。

 毎日4時間かけて1リットルの点滴をするグループと、100㏄の点滴をするグループで、「口の渇きなどの脱水症状」「むくみ」「腹水」などの差を比べています。「脱水症状」については、40点満点の指標で、1リットル点滴群で平均3.3点の減少、100㏄の群では2.8点の減少と、どちらのグループも徐々に悪化して改善は見られませんでした。

「むくみ」や「腹水」に関しては1リットル点滴群ではむしろ悪化しており、全体的には点滴群のほうが悪いという結果です。この研究では生存期間についても比較していますが、どちらのグループも平均17日で亡くなっていました。

「食事がとれなくなったら点滴くらいは」と皆さんも思われるかもしれません。しかし、どうやら点滴は症状の改善をしないばかりか、むくみや腹水を増やすだけかもしれないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。