身近な薬の落とし穴

鼻炎薬には規制対象の成分が含まれているものも

 鼻水、鼻づまり、くしゃみなどのアレルギー症状は、一刻も早く止めたい非常にツラい症状です。そんな時、鼻炎薬に頼っている人も多いでしょう。いまはたくさんの種類の鼻炎薬が販売されているので、気軽に服用されています。

 しかし、中には注意が必要な市販薬もあります。たとえば、「プレコール持続性鼻炎カプセルLX」のように、クロルフェニラミンやプソイドエフェドリンなどの成分が含まれているものがあります。クロルフェニラミンは鼻水やくしゃみなどのアレルギー症状を緩和し、プソイドエフェドリンは鼻粘膜の充血や腫れを抑えて鼻づまりを改善します。

 何の問題もないように思えますが、プソイドエフェドリンは、実は“覚醒剤の原料”なのです。絶対に行ってはいけませんが、プソイドエフェドリンが入った薬から、覚醒剤であるメタンフェタミンの製造が可能です。実際、2010年にはプソイドエフェドリン系化合物が入った風邪薬を用いた「覚醒剤密造事件」が発覚しました。この事件では、2人のイラン人が逮捕されています。

 その後、法律が改正され、プソイドエフェドリンをはじめ「乱用等のおそれのある医薬品」は厳しく規制されるようになりました。購入できる個数が制限されているだけでなく、大量または頻回購入希望者は、購入理由を言わなければなりません。さらに、購入者に不審な点がある場合、氏名、連絡先、特徴などが警察に情報提供されます。

 アメリカやオーストラリアなどの諸外国でも、覚醒剤の密造問題が騒がれた時期があります。現在では規制が進んでおり、密造事件は激減していますが、身近な薬の中には、“危険な物質”が含まれているものがあるのです。

 薬は、使い方によって敵にも味方にもなります。適切に使用するためには、必ず医師や薬剤師に相談してください。

中尾隆明

中尾隆明

1985年、愛媛県生まれ。愛媛県立南宇和高等学校を経て岡山大学薬学部を卒業。2008年からこやま薬局(岡山県)で管理薬剤師を務め、現在は企画運営部主任として各店舗のマネジメントを行っている。8月に著書「看護の現場ですぐに役立つ くすりの基本」(秀和システム)を発売。