Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

梅宮辰夫さんは白目に 十二指腸乳頭がんは黄疸で早期発見

梅宮辰夫さん
梅宮辰夫さん(C)日刊ゲンダイ

■「もしかすると…」

 家族がパニックになるのも当然でしょう。俳優・梅宮辰夫さん(78)が、十二指腸乳頭部がんで手術を受けていたと、娘のアンナさん(44)が公表。「ステージ1か2の間」の早期だったそうですが、大手術が予想されていたため、事前に医師から「もしかすると……」ということを説明されたそうです。

 手術は、十二指腸と胆のうのすべてを摘出し、すい臓と胃の一部を切除する12時間に及ぶものでしたが、無事成功。梅宮さんは退院して、現場復帰を目指しているということですから、家族としてはホッと一安心でしょう。

 読者の方は、この病名が耳慣れないかもしれません。今回は、このがんについてです。

 肝臓で赤血球が代謝されてできる胆汁は胆管を通って十二指腸に注ぎ、食べた物と混ざって便になります。一方、すい臓で作られる消化液のすい液はすい管から十二指腸に流れます。その2つの管が合流した十二指腸側の出口が、十二指腸乳頭部で、そこに腫瘍が生じたということです。

 アンナさんの説明によると、梅宮さんは6月中旬ごろに全身がかゆくなったほか、白目の部分が黄色くなる黄疸が見られたといいます。黄疸がひどく、受診を勧められたそうですが、一連の症状はこのがんの典型といえます。

 胆汁の出口ががんでふさがれると、黄疸が早期から強く出やすい。黄疸はすい臓がんでも生じますが、こちらは早期に表れるとは限りません。そのため、十二指腸乳頭部がんは、すい臓がんに比べて早期に発見されやすいのです。強い黄疸だと、かゆみを伴いやすいのも特徴です。

■すい臓がんより経過良好

 梅宮さんのように早期発見なら、治療は手術が第一。その方法はすい臓がんと同じで、すい臓の右半分と十二指腸をすべて切除する「すい頭十二指腸切除」になり、胆のうや胃も手術対象になる大掛かりなもの。あらゆる外科手術の中でも大規模で、ご家族が事前に大手術になるとの説明を受けたのはそのためです。

 術後は体重が10キロほどダウンしたそうですが、主治医が驚くほどの回復ぶりを見せ、本人は「釣りに行きたい。オレは元気だから、騒がないでくれ」と語っているといいます。進行して見つかるケースの多いすい臓がんは手術ができても、経過があまりよくありませんが、早期に見つかるケースの多い十二指腸乳頭部がんは、梅宮さんのように術後の経過は比較的良好なのです。

 ですから、梅宮さんの現状があるのは、家族が早期の黄疸を見逃さなかったこと。家族の力で乗り越えた勝利といえるでしょう。このがんが進行すると、すい臓内に浸潤し、高確率で肝臓などに転移するため、かなり厳しい状態になります。

 今年は、梅宮さんの親友の松方弘樹さんが脳腫瘍を発症され、先日は九重親方がすい臓がんで亡くなりました。男性に限ると、3人に2人ががんになる時代を象徴する年になっています。がん検診ですべてのがんをカバーすることはできませんが、せめて有効性が国際的に認められている胃、大腸、肺の3つは受けておくことです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。