若い頃とは違う柔軟性と筋力 中高年はスポーツ障害に注意

最悪の場合は走れなくなることも…
最悪の場合は走れなくなることも…(C)日刊ゲンダイ

 過ごしやすい季節を迎え、「思いっきり体を動かし、スポーツを楽しむぞ」と燃えている中高年も多いのではないか。しかし、柔軟性や筋力の衰えた中高年が、健康のために運動を始めようとすると、逆に体を壊してしまうケースも少なくない。若い頃と同じに考えていると後悔することになりかねない。

■無理な動きやオーバーワークは禁物

 会社の健康診断でコレステロール値が高く、太りすぎと診断された渡辺健一さん(52歳=仮名)。一念発起してダイエットを始めた。糖質制限食を始めるとともに大学生時代に熱中したテニスの再開を宣言。飲み屋で知り合ったテニス好きを集めた。コートに勢いよく走り出した渡辺さん、突然バチンという大きな音に包まれた。と同時につまずいて前のめりに倒れた。後ろから足をバットで殴られたような痛みを受け、気が付いたら左足首がブラブラしていた。アキレス腱断裂だった。日本整形外科学会スポーツ医で「東馬込しば整形外科」(東京・大田区)の柴伸昌院長が言う。

「このところ、渡辺さんのようにスポーツを始めたばかりの中高年の患者さんが増えています。頭の中には若い頃の“動ける自分”のイメージがあるから、無理な動きやオーバーワークにつながってしまうのでしょう」

 アキレス腱は主にコラーゲンでできていて、年齢を重ねるとともに柔軟性を失い、切れやすくなる。コレステロール値が高い人はコラーゲンにコレステロールが沈着するためアキレス腱が太くなり、劣化しやすい。

 渡辺さんは運動ができるまでに回復したが、なかなか治らず、走れなくなる場合もあるという。

■ジョギング中の捻挫に注意

 中高年の人気のスポーツといえば、ジョギング、水泳、ゴルフ、ボウリング、ハイキング、サイクリングなど。激しい運動ではないが、スポーツ障害やスポーツに伴う外傷は、必ずしも激しいスポーツだけで起きるわけではない。中高年で多いのがジョギング中の捻挫だ。

「捻挫は足首が大きくねじれて関節の可動域を超えることで発症します。関節が限界以上に動くことで靱帯が損傷し、痛みと機能障害が出る。中高年が一度重度の捻挫になると関節に緩みが残ったり、逆に可動域が狭くなることもあって、機能障害が残りやすいのです」(柴院長)

 日本人はO脚が多いことから、ジョギングで足の外側の筋肉に負担がかかり、膝の外側の腸脛靱帯炎になりやすい。

「ジョギングする中高年は変形性膝関節症にも注意が必要です。膝関節の軟骨がすり減ることで発症する疾患で、初期は数日ジョギングを休むだけで痛みが解消しますが、無理して続けると、日常歩行にまで影響するケースもあります」

 中高年に人気のサイクリングもリスクがある。前かがみになりながら、首だけを持ち上げて反り返る姿勢を長時間保つため、頚椎を痛めやすい。

「首には7つの骨とその間にクッションの役割をする椎間板があります。それが何かのはずみで飛び出してくるのが頚椎椎間板ヘルニアで、手や肩に激しい痛みやしびれが出ます」(柴院長)

 中高年の水泳というと、不整脈などによる突然死ばかりが話題になるが、肩を故障することも少なくない。

「クロールやバタフライなどをして肩関節を痛める人がいます。原因は、若い頃に比べて体のローリングや肩甲骨の動きが低下することで若い頃のような大きなフォームができなくなっているのに、できると勘違いをして無理をすることで肩関節内の組織を傷めるのです」(柴院長)

 スポーツ障害を避けるには、事前の柔軟運動やシューズなど道具の選定、関節の可動域や筋肉の状態チェックなどが欠かせない。50歳を過ぎてスポーツを始めようと思ったら、まずは整形外科の医師を訪ね、メディカルチェックをしてもらうことだ。

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