欧米で有効性が広く認められている終末期の治療として、「Dignity Therapy」(尊厳療法)というものがあります。終末期の患者がこれまでの人生を振り返り、残される人に対するメッセージを届ける治療法です。インタビュアーとの面接を記録して文書に取りまとめ、それを患者自身が確認したうえで、家族や友人に手渡したり、送り届けます。
これまで最も印象に残った出来事、最も大切に思っていること、人生から学んだこと、残される人に伝えたいことなどが文書化されます。ビデオや録音を使用するケースもあります。
この治療法の効果はランダム化比較試験で検討されています。余命6カ月以内の末期がん患者を対象に、「標準的な緩和ケア」と「患者中心のケアという精神療法」とを比較して、「尊厳のスコア」「不安・うつのスケール」「生活の質」などを検討しています。その結果「尊厳療法」で最もスコアが良いことが示されました。
しかし、日本で尊厳療法を行おうとしたところ、対象者の大部分がこの治療を拒否したという研究結果が報告されています。
「死ぬことが分かっているのに、どうしてわざわざこんなことを勧めるのか」「死について考えたくない」というのが、主な拒否の理由だったようです。自分自身のこととして考えてみても、死が迫った状況で、他人に改めてこれまでを話すというのはむしろ気が重い感じがします。最後はやはり本当のことを言わなければ……みたいな感じがしてしまうのもイヤな気持ちがします。
死が迫った時こそ、死をとりわけ問題にしないという日本人の対応方法は、意外にいい方法なのかもしれません。
数字が語る医療の真実