本当は怖い!歯の病気

妊婦の歯周病は孫まで苦しめる

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 歯周病をとくに注意すべきは妊婦だ。本人だけでなく胎児にも悪影響を及ぼす。日本歯科人間ドック学会副会長で市川歯科医院(東京・虎ノ門)の市川信一院長が言う。

「歯周病の妊婦は、そうでない妊婦に比べて早産になったり、低体重児が生まれやすくなります。健康な妊婦の7倍アップするという研究報告もあります」

 妊婦の飲酒は早産リスクを3倍にするといわれるが、歯周病はその倍以上のリスクがある。

 早産とは正規産(妊娠37週~41週と6日)以内の出産で22週~37週未満を言う。低体重児とは出産時体重2500グラム未満のこと。いずれも生まれてきた子供の将来の病気リスクが高くなることが知られている。

「英国の研究では、低体重児は糖尿病や肥満、高血圧の発症リスクが高いことが報告されています」(市川麻里江副院長)

 歯周病や虫歯は出産後の食べ物の口移しなどで母子感染が起きることが知られているが、妊婦の歯周病が恐ろしいのは、その次の世代にまでリスクが伝わること。国立成育医療研究センター周産期・母性診療センターの荒田尚子氏によると、低体重で生まれてきた女性が妊娠すると、妊娠時糖尿病の発症リスクが健康な女性に比べて6倍高いという。

 なぜ、歯周病の妊婦は早産になったり、低体重児が生まれたりしやすいのか?

「歯周病菌が引き起こす炎症に対して人は免疫組織が働き、サイトカインを放出して歯周病菌から我が身を守ろうとします。その代表的物質がプロスタグランジンという物質です。この物質の血中濃度が高くなると、胎盤を刺激します。すると、出産の準備ができたと勝手に判断して子宮を収縮させ、早産させる可能性が出てくるのです」(市川副院長)

 実際、プロスタグランジンは陣痛促進剤としても使われている。つまり、歯周病の妊婦は、常にプロスタグランジンにさらされ、早産リスクに悩まされるというわけだ。

 子宮収縮が繰り返されれば胎児への酸素や栄養を送る作業に影響が出て、胎児は栄養不足になる。

 ならば、しっかり歯磨きをすれば良さそうだが、妊婦はつわりのせいで歯ブラシを口の中に入れることも苦しくなる。

「歯周病菌の中には女性ホルモン(エストロゲン)が好きなものもいます。妊娠時は女性ホルモンの分泌が活発になるため、歯周病にかかる人が増えるのです。ただでさえ、歯周病は20代で重症化する女性は少なく、30代では増えます。昨今は30歳以上の女性の出産が増加傾向にあるので、歯周病にはとくに気をつけなければなりません」(市川副院長)