自然な歩行も可能に 「義肢」の性能はここまで進化した

「健常者と同じ、いや、それ以上じゃないか」――。リオのパラリンピックで活躍する選手を見て、希望を持った人も多かったのではないか。実際、今回のリオ・パラリンピックの「陸上走り幅跳び」で、金メダルを獲得したマルクス・レーム選手(28)の記録は8メートル21センチ。これは健常者の金メダル記録8メートル38センチ(米国人)とわずか17センチの差しかない。それを支えたのが義肢だ。その技術はどこまで進化しているのだろうか。

 レーム選手は2003年、ウェイクボード(水上スキー)の練習中に右足膝下を切断。以来、義肢になった。

 日本の場合、こうした下肢切断は、「年間約1万人」(「日本下肢救済・足病学会」=東京・新宿)という。

 公益財団法人鉄道弘済会「義肢装具サポートセンター」(東京・南千住)の臼井二美男・義肢装具研究室長は、リオ・パラリンピックの開催中、選手たちの義肢サポートに奮闘してきた。

「あのような義肢を利用した選手の活躍が世界中に発信されたことは、身体障害者にとっては大変な励みになったでしょうね。中には“私もやってみたい”と希望を抱く人が出てくると思いますよ」(臼井室長)

■費用は6万~200万円

 同センターでは、年間2000体を超える義肢・装具を製作している。最近は高齢者が増えているそうだが、利用者の年齢層は1歳から96歳までと幅広い。2000体超のうち、スポーツ選手の割合は約5%。残りの95%は、「非外傷性足切断」(糖尿病などの病気)である。

 義肢製作に至る手順は、足が切断されたあと、切断した部位が固まる時間を待って(平均は手術後1カ月)、義肢の「仮合わせ」がスタートする。

 義肢の製作は、切断面(平面か凹凸があるか)の違い、サイズ(足首から下か、膝から下か、ももから下か)、片足か両足か、性別、体重、身長、健足(残された足の筋肉度合い)などを考慮して緻密な計算がされる。

 製作料金は、6万~200万円前後と差がある。料金設定をもう少し詳しく説明すると、「膝下」が30万~80万円。膝よりも上に至ると、50万~200万円になる。

 サイズが違うにしても、どうして価格にこのような開きが出てくるのか。

「義肢は歩きやすさ、軽さ、コントロールのしやすさを重視しますが、そうした目標を掲げると、素材がカーボン、チタン、アルミ合金などになって価格が上がってしまいます。逆に価格が安いのは、素材が鉄やステンレスということになるでしょうか」(臼井室長)

 義肢の性能もどんどん進化している。近年はドイツなど外国製品が先んじているが、メカトロニクスを内蔵させ、人間の神経をコンピューターで制御する義肢もある。

「残された足からは汗が流れ、微弱の電気を発信しています。専門用語でこれを『筋電』といいます。この筋電をコンピューターで読み取ることで、義肢が人間の足に極めて近い歩き方をするタイプも登場しています。昔はこの機器が大きくて重く、女性には大変でした。今後の課題としては、この精密機器をどこまで小さくできるかですね」(臼井室長)

 ただ、義肢が完成してもそれで終わりではない。義肢を装具して、ハードなリハビリが必要だ。そして義肢の専門家が整備を何度も繰り返しながら、できる限り利用者の満足度を高めていく。

 義肢の製作は「障害者総合支援法」により、利用者は通常、費用負担が軽減される。

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