Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

肝臓がんは肝炎段階で治療すれば防げる

肝臓がんで治療中
肝臓がんで治療中(C)日刊ゲンダイ

 経過が順調なのでしょうか。肝臓がんで治療中のミュージシャン、ムッシュかまやつさん(77)が、ラジオのレギュラー番組に出演。「今回は病室からジョインしています」と状況を説明するなど、元気な声を届けていました。

 番組では、盟友の吉田拓郎さん(70)から励ましのメールを受けたことを紹介。感謝の気持ちからか、拓郎さんから提供された「我が良き友よ」を流していました。私も大好きな曲です。軽妙なトークにホッとされた方も多いと思います。

 事務所の発表などによると、ムッシュは体調不良から5月に精密検査を受け、肝臓がんが発覚。通院しながら治療を受けていたようですが、8月23日に脱水症状で緊急搬送され、そのまま入院しています。

 肝臓がんというと、がんの中でも厄介と思われるかもしれませんが、原因がハッキリしていて、実は予防が可能です。

 肝臓がんは、肝臓そのものの肝細胞がんと、肝臓の内部を通る肝内胆管がんに分けられますが、9割は肝細胞がんですので、ムッシュもその可能性が高いでしょう。

■血小板で進行予測

 で、なぜ予防が可能かというと、慢性肝炎から悪化した“成れの果て”の状態が肝硬変ですが、ほとんどの肝臓がんは肝硬変にできます。肝硬変に移行すると、血小板の数が低下するなどの変化があり、その数値をフォローすることで、肝臓がんの発症を予測できるのです。また、肝臓がんが大きくなると、腫瘍マーカーの「α―フェトプロテイン」が上がります。

 つまり、慢性肝炎の状態で治療すれば、肝臓がんへの進展を食い止めることができるのです。

 慢性肝炎を起こす原因は、8割が肝炎ウイルスで、残りの2割がアルコールと肥満。肝炎ウイルスはB型とC型がありますが、輸血用血液はどちらも除去されているため、新規の肝炎ウイルス感染者は激減。210万~280万と推計される感染者は40歳以上が9割。しかもB型はワクチンで予防でき、C型は感染しても駆除する治療法ができたため、肝臓がんによる死亡率はこの10年で半減しています。

 ただし、B型は母子感染するほか、セックスや入れ墨の器具の不正使用などでも感染するため、若い人の感染者が増加傾向にあるので要注意です。B型に感染すると、10%が慢性肝炎に進行するといわれています。

■メタボな人は要注意

 欧米は過剰な飲酒で慢性肝炎を起こす人が2割ほどいますが、日本はせいぜい1割。それより注意したいのは、非アルコール性脂肪性肝炎。肥満による脂肪肝から進展する肝炎です。メタボ予防は生活習慣病との関連で語られますが、肝臓がん予防の点でも大切でしょう。

 肝臓がんになると、治療は手術が第一。病状や体の状態などによって手術ができないケースは、体の外から特殊な針をがんに刺すラジオ波焼灼術や、がんに栄養を運ぶ血管を塞ぐ肝動脈塞栓術などを行います。

 これまで放射線治療はほとんど行われませんでしたが、最近は放射線が選択されるケースも。あるいは、免疫療法が選ばれるケースもあります。放射線や免疫療法は通院で治療できますから、ムッシュは当初、どちらかで治療していたのかもしれません。

 ムッシュには「絶対復活」を願う一方、読者の方には慢性肝炎の状態で治療することを強くお勧めします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。