客観的根拠なく診断困難…“エセうつ病”で注意すべきこと

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病や高血圧などは、検査数値が診断の根拠になる。しかし、うつ病などの精神疾患は、客観的根拠がない。それゆえに診断が難しく、「見逃し」や「似非」が多くなる。東京女子医大東医療センター精神科・山田和男教授は、「『うつ病なのに、うつ病と診断されていない』『うつ病ではないのに、うつ病と診断されている』という2つの問題が混在している」と指摘する。適切な対処が行われていないのはどちらも同じで、治癒率に影響が出てきてしまう。適切な診断・治療を受けるために知っておくべきことは何か?

■2質問+1法

 診断を受ける上で山田教授が推奨するのは「2質問+1法」。うつ病が疑われる場合、医師は「抑うつ気分」と「興味の喪失」はないかの2つを問う。これに「それらに助けが必要か」をプラスする方法だ。

「抑うつ気分と興味の喪失は、うつ病の精神症状ですが、これらだけでは正確に診断できないケースが多い。誰でも抱く感情で、うつ病に限ったものではないからです」

 うつ病は精神症状と身体症状の両方が見られるので、睡眠障害、食欲不振・過食、倦怠感なども確認する。

 言い換えれば、治療がうまくいっていると患者側が感じられず、受診時に精神症状だけを問われたようであれば、その診断は正確ではないかもしれないのだ。

■本当にうつ病か

 うつ病と診断され、適切な治療をきちんと受けているにもかかわらず、症状がなかなか改善されない場合は、別の疾患かもしれない。

 特に意識したいのが、女性の更年期障害と双極性障害だ。

「まず、更年期障害を発症しやすい年齢は、うつ病を発症しやすい年齢でもあります。しかも、症状が似通っている。次に、双極性障害はうつ状態と躁状態を繰り返す疾患で、躁状態が派手でなく期間が短いタイプでは躁状態が見逃され、うつ病と診断されるケースが少なくないのです」

 いずれも、治療法は異なる。更年期障害の治療はホルモン療法や漢方薬などを用いるが、それらはうつ病には効かない。

 双極性障害に至っては、治療戦略の間違いが深刻な結果をもたらしかねない。近年、抗うつ薬を用いることで双極性障害がより悪化するという報告があるのだ。

■増強療法

 よくならないうつ病には、適切な治療でも治らない難治例と、医師の腕に問題がある例がある。後者では「薬の処方が不適切」というケースが珍しくない。

「中等症以上のうつ病は、抗うつ薬が治療の第1選択で、『1種類の抗うつ薬を十分量かつ十分期間使用』が効果を発します。効き目が悪ければ、2剤、3剤と増やすのではなく、別の抗うつ薬に切り替えるか、抗うつ薬の効果を高める別の薬を少量併用する増強療法が行われます」

 しかし、別の医療機関の治療で症状が改善しないと訴える患者には、3剤以上の多剤併用だったり、量が少なかったりするケースが少なくない。

「さらに、不安や不眠に効くベンゾジアゼピン系の抗不安薬の問題もある。長期服用は依存を招くため、処方は4週間を限度と定められている。しかし、それ以上処方されている患者さんもいます」

 山田教授は「専門医の資格を取っていても、認知症や統合失調症など別の精神疾患を中心に診ており、うつ病をあまり診ていない医師もいる」と話す。「ちょっと違うかも」と感じたら、迷っていないで、別の精神科医を受診した方がいい。

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