妻が「末期がん」になったら

<2> 受診日は夫も同行すべきか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「乳がんです。肝臓に転移が見られますね。放射線と抗がん剤で治療していきます。すぐ入院してください――」

 八王子市在住の松田さん(68=仮名)は、妻ががん告知を受けた6年前のその日、医者から言われたのは、こんなことだったと振り返る。

「がんと聞かされた瞬間、気が動転して、話の内容をよく覚えてないんです。当時、妻はまだ58歳。検査結果を聞くまで、2人ともまさか、がんだとは思ってなかったし、“どうしよう”と、そればかりが頭の中をぐるぐる回って……。ただ、医者の話を聞く妻は、顔の血の気が引いた感じで、本当に今にも倒れそうでした。それを見て、『俺がシッカリしなきゃ』って思いましたから」

 エックス線の画像を指さしながら病状を淡々と説明する医者は、驚くほど冷静で「まるで機械のようだった」と振り返る。

「その場で何か質問した覚えはありません。できなかったんですね。診断も治療方針もすでに決まっていて、言い方も断定的でしたし。がんなのに『手術しましょう』とは言わないんだと、そんな疑問を持った気がします。あの時、診察室から出て待合室へ行く数メートルの間に、珍しく妻が私の手を握ってきた。相当、不安だったんでしょうね」(松田さん)

 平凡な日々を送る家庭に、突然、降りかかってくる“妻のがん告知”。夫たちは、松田さんでなくともショックを受けて、気が動転し、妻の病状はこれからどうなるのかと不安に襲われる。

 日本対がん協会が、06年からがん患者やその家族を対象に無料で実施している「がん相談ホットライン」([電話]03・3562・7830)には、昨年度、1万2168件の電話相談が寄せられた。月平均1000件を超えた。1回の相談時間は原則20分だが、中には60分以上に及ぶ相談もあるという。“わらにもすがりたい”相談者たちの必死の思いが伝わってくる。

「相談内容は、ホットライン開設以来、『治療』に関する相談が最も多かったのですが、昨年度初めて、わずかながらですが『不安など心の問題』に関する相談が一番多くなりました」(広報担当者)

 治療法や症状・副作用などについては、確立されている部分が多い。ネット情報もある程度、参考にできる。だが、病に倒れた妻の心のケアとなると、これといった決定打はないに等しい。

「あと何年、生きられるのか」「もし、私がいなくなったら子供たちはどうなる」――。妻たちの不安は尽きない。進行度はもとより、家族構成や年齢が違えば対応も違ってくる。だからこそ難しいし、他人に頼りたくなるのだ。

「私の妻の場合、入院して1カ月ほど放射線と抗がん剤治療を受けました。ほぼ、仕事の帰りに病院に寄って1時間くらい話し相手になります。『ご飯はどうしてる?』『あれは大丈夫?』『親戚には連絡した?』などと、毎日質問されました。私はキチンと話を聞いてやることで、妻を安心させてあげられたような気がします」(松田さん)

 松田さんの妻は1年半ほど入退院を繰り返したが、治療状況や検査結果を聞くときは必ず同席した。

「医者の言うことは全部メモし、不明な点は次回病院に行ったとき質問しました。疑問が解ければ、妻も安心しましたから。私にできることはそれくらいしかありませんでした」(松田さん)

 妻と一緒にいてあげること、これが一番の“良薬”になるということか。