年を取ったらクスリを見直せ

副作用が多い睡眠薬はなるべく使わない

 高齢者は、若年成人に比べて睡眠の質が低下します。ぐっすり眠る睡眠を「徐波睡眠」といいますが、この割合が減少して「浅い睡眠」の割合が増加します。その結果、寝つきが悪くなったり、何度も目が覚める「中途覚醒」が多くなります。そのため、高齢になって不眠に悩み、睡眠薬を服用するようになるケースも少なくありません。しかし、安易に睡眠薬を飲んではいけません。

 不眠には、他にもうつ病、譫妄、むずむず脚症候群(restless legs syndrome)、皮膚のかゆみ、頻尿など、さまざまな原因があります。睡眠薬を飲む前に、まずは「不眠の原因」に対応する必要があります。

 他の病気がある場合は、そちらを治療しなければなりませんし、生活習慣の見直しも大切です。規則正しい起床と就寝、朝の日光浴、適度な運動、昼寝の制限、アルコール・ニコチン・カフェインの制限などで改善するケースもあります。

 それでも、不眠が続く場合に、睡眠薬での治療を検討します。睡眠薬は多くの種類がありますが、「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」が最もよく使用されています。脳内のベンゾジアゼピン受容体に作用し、脳の働きを抑えて催眠作用を発揮するものです。

 ただ、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、転倒・骨折、日中の倦怠感などの副作用が出るリスクがあるので、可能な限り高齢者の使用は控えるよう推奨されています。

 中でも「トリアゾラム」(一般名)は、健忘のリスクがあるため、注意が必要です。実際、トリアゾラムを服用していた高齢者が、夜食を食べているのに、本人はまったく覚えていなかったという事例もあります。

 さらに、睡眠薬は急に服用を中断すると、もっと危険です。薬を急にやめると「反跳性不眠」が表れ、かえって眠れなくなってしまうのです。

 睡眠薬の服用を中止するには、「徐々に少なくする(漸減)」などの方法があります。詳しくは医師や薬剤師に相談してください。

中尾隆明

中尾隆明

1985年、愛媛県生まれ。愛媛県立南宇和高等学校を経て岡山大学薬学部を卒業。2008年からこやま薬局(岡山県)で管理薬剤師を務め、現在は企画運営部主任として各店舗のマネジメントを行っている。8月に著書「看護の現場ですぐに役立つ くすりの基本」(秀和システム)を発売。