妻が「末期がん」になったら

<3>自己負担が「月4万円」の窓口払いでチャラになる制度

カネの心配も妻にはつらい(写真はイメージ)
カネの心配も妻にはつらい(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 末期がんで苦しむ妻を救うには、治療が欠かせない。がんの種類や病状によって、手術と抗がん剤、放射線をどう組み合わせるかが異なるが、末期がんとなると100万円超も珍しくない。莫大な医療費をどうやって工面するか――。

 土木関係の伊藤昌さん(42=仮名)は3年前、妻(40)のがん告知に目の前が真っ暗になったという。

「慢性骨髄性白血病でした。勤め先の会社で受けた健康診断で白血球の異常を指摘され、精密検査の結果、がん宣告されたのです。その前の年、子供を授かったばかりで、先生に『何としても妻を助けてください』と叫んだことは覚えています」

 妻を助けたい一心で医師に治療を託す。妻を、子供を、家族を守るためなら、夫として当然だ。「今は分子標的薬のグリベックというよく効く薬があります。これを使えば確実によくなります」と言う主治医の言葉が心強かったが、治療がスタートして愕然とした。

 1錠3000円ほどの薬を1日4回飲む。毎日の薬代だけで“諭吉”が消える。毎月30万円超。3割負担としても毎月約10万円はきつい。

「妻は助けたい。でも、この出費が毎月毎月続くとなると、正直、500万円の年収ではバイトしてもカバーし切れない。ざっと計算した医療費は1年で150万円。2000万円の住宅ローンや家族の生活費もある。ヤバイと思う気持ちが妻に伝わったのか、妻に『この薬やめよ……』と言わせた自分が情けなかった。この薬を中断することは、ネットで“静かな自殺”と呼ばれていたんですよ」

 たとえば、肺がんの従来の抗がん剤「シスプラチン」は月額10万円以下だが、新型の「オプジーボ」は同300万円を超える。抗がん剤は高額化が進み、効果抜群の薬でも中断を考えたことがある人は4割に上る。打つ手はないか。

「がんとお金の本」の著者で、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏が言う。

「公的医療保険の自己負担額に一定の上限を設ける高額療養費制度を利用することです。上限額は年収によって異なり、例えば月収40万円の方で、毎月8万円ほど。この制度を利用すると、仮に月額100万円の医療費総額で自己負担が3割の30万円の場合、限度額との差額の22万円が還付されるのです。限度額に達する月が直近1年間に3カ月あると、4カ月目からは『多数回該当』で月額4万4400円に上限が下がる。勤務先の健保組合によっては、独自の付加給付を導入しているところもありますから、自己負担額はさらに下がる可能性がある。健保組合に相談することです」

 伊藤さんは告知当初、この制度を知らずに苦しんだが、病院のソーシャルワーカーに教えてもらって助かった。がん拠点病院なら「相談支援センター」に相談するのもいいだろう。

 ただし、高額療養費制度は、自己負担額をいったん支払った上で限度額の超過分を還付するのが基本だ。とりあえず、自己負担分を全額払う必要がある。教育費やローンがある人には、この出費は重い。伊藤さんも最初、後払いの還付にやられた。

「会社の健保組合に申請して、『限度額適用認定証』を発行してもらいました。これを病院の窓口に提出すると、支払いが限度額で済み、多数回該当なら4万円ほどで済むのです」(伊藤さん)

 月額30万円の負担が4万円に圧縮されたら軽く感じられる。この制度を賢く利用すれば100万円の貯蓄で何とかなるが、40代は3割が貯蓄ゼロ。がん保険の加入率も4割と少ない。月額4万円さえきついのが現実だ。

「罹患後はがん医療費に気を取られがちですが、住宅ローンや教育費など家計の中で負担が重くなりやすい固定支出を見直すことも大切です」(黒田氏)

 がんとの闘いは長期戦だが、治療を保険の範囲内に済ませ、公的補助を利用すれば決して怖くないだろう。