妻が「末期がん」になったら

<4>気が動転しても、夫は仕事と看病の“同時進行”が肝心

最高の笑顔で
最高の笑顔で(提供写真)

〈2013年の2月終わり、8年連れ添った妻が子宮頸がん末期とわかり、半年もつかわからない命と言われた〉。現在、千葉県を中心にパントマイムやバルーンなどで子供たちを喜ばせているパフォーマンタロウさん(40)。ブログ「2013年 妻が子宮頸がんになって」で赤裸々な看病記を公開している。

 妻が余命を告げられてから一番困るのは仕事と看病の両立だった。残された時間を妻との思い出づくりに充てたいというのが、夫としてのせめてもの人情。しかし、仕事を辞めるのは最悪の手だ。

 パフォーマンタロウさんはどうしたのか?

「妻の子宮頸がんが判明した当初、私は菓子製造会社で普通の会社員をしていました。幸い私の実家が近くにあり、両親など周囲のサポートで仕事を続けられたのです」

 医師の言葉に気が動転してしまいがちだが、収入が途絶えたら家族もろとも干上がってしまう。仕事と看病は同時並行で行うことが肝心だ。

 だが、病院の面会時間は働きながら看病する側の立場に立っていない。がん研有明病院や兵庫県立がんセンターは平日夜8時まで、築地の国立がん研究センターにいたっては夜7時で終了。5時の退社きっかりに仕事を終えれば何とか駆けつけられる時間だが、毎日のように定時退社する同僚を周囲はよく思わないだろう。パフォーマンタロウさんの妻の入院先も7時までだった。

「私の場合、朝8時から夕方5時までの勤務体系でしたが、社長に理解があり、緊急入院などがあれば早退や欠勤を認めてくれました。ただ、どうしても時間が取れない時は、朝5時に起きて妻の病院へ行き、足をさすってから働きに行ってました。本当は行ってはいけない時間ですが、事情を知っている看護師さんも見て見ぬフリをしてくれたのです」

 そんな時に役に立つのが有給休暇だ。労働基準法では20日間の有休が義務付けられているが、東武鉄道のように年27日と法定以上の休みを与える企業も増えた。さらに、退院後の自宅療養の看護などのケースにも使える「育児・介護休養制度」(通算93日)もある。

 パフォーマンタロウさんの妻の病状は一進一退が続いた。当時のブログにこうつづっている。

〈熱も毎日38.5度でているし、気持ちはどんどん落ちて不安定。言葉はどんどんキツくなる。俺も疲れがピーク。お互いにイライラしている〉(2013年4月22日)

 それでも、翌年9月には病院から一時退院の許可を得て、奥さんが行きたがっていた八景島シーパラダイスへデートにも出かけられた。写真のようにはじける笑顔を見せる彼女だが、この頃、体調は万全でなく、車イスでの移動だった。

 この写真の3カ月後……彼女は帰らぬ人となった。

〈2014年12月14日18時36分 妻は息を引き取りました。誕生日。妻らしい〉

 享年41。改めてパフォーマンタロウさんがこう言う。

「彼女を見たのは、ケーキの配達先であるレストランでした。僕のひと目惚れです。病院で苦しむ彼女を励まそうとピエロに扮したら、笑ってくれた。それがパフォーマーになったきっかけです」

 亡くなってから9カ月後、妻のスマホをようやく解約できたという。