天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

不整脈の中で最も危険な致死性不整脈 救命はAEDが有効

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓疾患による突然死を防ぐ方法について、これまで①急性冠症候群による急性心筋虚血、②大動脈破裂や解離性大動脈瘤を取り上げました。今回は、③致死性不整脈についてお話しします。

 不整脈の中で、最も危険だといわれているのが「心室細動」です。健康な人の心臓は、電気刺激が心臓の心房から心室へ順番に伝わることによって規則的に収縮し、血液を送り出すポンプ機能を維持しています。しかし、心室細動は電気刺激がうまく伝わらず、心室がけいれんするだけで収縮しなくなり、心臓が止まってしまいます。心臓突然死の70~80%は心室細動が原因とみられていて、発症して心臓が停止すると約10秒で意識がなくなり、4分ほどで脳死状態になります。

 先天性の遺伝子異常が原因の場合もありますが、心臓に異常がない健康な人でも、脱水、栄養障害、腎臓障害などが引き金になって発症するケースもあるので注意が必要です。ただ、心室細動で突然死した人は、倒れる前に急に脈が速くなったり、一瞬強く打ったり止まったりするような期外収縮や、激しい動悸などの自覚症状があった人も多いといわれています。時には急に全身の冷感を覚えるような症状になることもありますから、日頃そうした自覚症状を感じたら受診しておきましょう。

 また、心室細動が起こった場合、救命のためにはAED(自動体外式除細動器)が有効です。心室細動で倒れた人がいたら、周囲の人は直ちに救急車を呼び、到着を待つ間にAEDで電気ショックを与え、心臓が元通り正常なリズムを刻めるようにしてやる必要があります。いざという時に慌ててしまわないよう、消防署や日本赤十字社の支部などが行っている救命処置の講習を受け、AEDの使い方を覚えておくといいでしょう。

 他に致死性の不整脈として知られているのが「ブルガタ症候群」です。かつて、若年~中年の男性が睡眠中に突然死してしまう原因不明の「ポックリ病」と呼ばれていた疾患です。90年代に入り、死亡の原因は心室細動であることが報告され、普段から心電図で特徴的な波形を示していることも分かりました。

 さらに、発症には遺伝が大きく関係しているとみられているので、家族(祖父母、両親、兄弟)の中に不整脈で突然死した人がいたり、これまでに意識を失ったりした経験がある人は、まずは心電図検査を受けておいたほうがいいでしょう。

 最近、よく見かけるようになったのが「冠動脈起始異常」によって起こる致死性不整脈です。心臓に栄養や酸素を送っている冠動脈が本来の場所とは違うところから出ている先天性奇形で、冠動脈が他の部位から圧迫されやすいため、血流が突然、途絶して再灌流障害を起こし、致死性の不整脈に至ります。

 これも、救命のためにはAEDが有効です。周囲に冠動脈起始異常を抱える人がいる場合は、使い方に慣れておくことが大切です。

 ただ、冠動脈起始異常の診断は非常に難しいといえます。かなり経験のある専門医でも診断できないケースが少なくありません。これまでの経験では、医師から「冠動脈がけいれんするタイプの狭心症=冠攣縮性狭心症」だと診断されている患者さんの中に隠れていることが多く、症状が落ち着いている状態で3DCT検査を行ってみると、冠動脈起始異常に気付くケースがあります。そう診断されている人は、あらためて3DCT検査を受けることをお勧めします。

 冠動脈起始異常が見つかった場合、経過観察するのが一般的ですが、手術をして治すケースもあります。本来とは違う形で出ている、もしくは入ってきている冠動脈を、正常な位置に戻してあげることができれば理想的です。最近もその手術を行いました。

 不整脈の代表的な自覚症状は、動悸、脈が抜ける感じがするというものです。そうした症状があったり、健診などで心電図の異常が指摘されたりしている人は、放置せずに専門医を受診する。これが、致死性不整脈による突然死を防ぐ第一歩です。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。